約 514,101 件
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/621.html
<主人公> ●ミラ・ツクモ(Mila Tsukumo/九十九 御良)female age 20 浮世離れした天才型大学生にして大学講師。黒い髪の日系三世で、両親は既に他界した。 鳳条院グループが主催する大会で爆弾テロが行われる事を知り、日本に向かった。 UCLAに在学していたが現在は鳳条院家に居候中。UCLAが出した特例で、まだ学生の身ながら日本の私立龍ノ宮大学で文系学問の講師を勤める破目になってしまった。 普段着は黒い喪服、トライアンフのROCKET(Over2000ccの化け物サイズ)を駆り、巨大な神姫収容トランク所持する。背丈が極めて低めなのが悩みだが実はトランジスターグラマー。最近は白いワンピースを着たりしておしゃれもするらしい。 やや男勝りな自信家。冷淡でやや狡猾で何を考えているのか分かりにくい。慇懃無礼そうに見えるが礼を尽くす相手にはきちんとした態度は取る。 アメリカでは神姫BMAに認定された違法神姫の調査官で、彼女の所持する神姫達は恐ろしい程に高い戦闘力を有する。 <神姫> ●『烈風』(Reppuu) Type-Dog ミラが所有する神姫。汎用・特殊戦闘特化。 こげ茶の髪と赤く光る目が特徴。素体は肌の部分がやや白めで少し筋肉質。 情緒不安定でやや破綻した性格な上に毒舌。 腹が立ったり気に入らない事があれば近くのものを蹴っ飛ばす悪い癖がある。が、人間のマナーの悪さから来る憤りもあり、UCLAではBruins(ブルーインズ)の番犬とも呼ばれている。 戦闘スタイルは割と基本的だがやや力任せな感がある。また空中戦が上手い。だが、相手の神姫やオーナーに罵声を浴びせたり、相手の武装を奪ったり、弱った相手に試合終了判定されるギリギリまで加虐したり、悪質なフィニッシュで決めたりと、多くの神姫やオーナーから嫌われている。 震電の冷淡な性格が気に食わないらしく大いに嫌っているが、禁断の関係の連山には何だかんだ言って甘えている。小言や説教が多いエステラが大の苦手。 『ふぅ、もうめんどくさいからチャッチャとくたばってくれる?』 ●『震電』(Shinden) Type-Devil ミラが所有する二体目の神姫。遠距離強行戦闘特化。 常にゴーグルを付けている為、瞳の色は不明。髪と素体は藍色に近い。原型に比べやや細身。 偶にミラの命令を無視したり、冷徹すぎて相手に悪い印象を与える程度。それでも、他の2体よりも遥かに良識的である。また銃器に関してうるさいところがある。 障害物に身を隠しての遠距離からの超精密射撃や、専用ユニット”フレスヴェルグ”を駆ってのミサイル爆撃・十字砲火・強行突撃が多いが、中~近距離でのアルヴォLP4の二丁拳銃で戦うスタイルが定着している。因みに嘗て、『ガ○=○タ』をマスターしたメジャークラスの神姫を、赤子の手を捻るように叩きのめした事があり、『ガ○=○タ』を完全否定している……つもりなのだが、拳銃を使った格闘がそれに近くなっていることに薄々感付いている。 ある秘密兵器を『ヘキサ』のラルフと一緒に共同制作しているとか。 絶対に口にはしないが、烈風の事はそれなりに信頼している様子。連山は笑顔と笑い声が鬱陶しくて嫌っている。『ヘキサ』の店長のラルフとは、オーダーやカスタム銃を共同制作する程に気が合っている。 『動くと撃つ、止まっても撃つ。抗うなら終わりにする』 ●『連山』(Renzan) Type-Santa ミラが所有する三体目の神姫。超近接高速戦闘特化。 金色の瞳を持つが常にニコニコ笑っている為、確認出来ない。素体は無駄に豊満でやや赤黒い。ストッキングではなくガーターベルトを付けておりより黒めの色合い。 どんな時でも楽しそうに笑っており、天真爛漫で無邪気で何を考えているか分からない。一日の殆どはクレイドルで眠っている為、烈風は『眠り姫』と呼んでいる。不謹慎な夢を見ていることが多いとか。 何故か射撃戦闘はまるでダメだが白兵戦能力だけは驚異的に高く、意外にも超高速戦闘にも長けている。また、レーザーやビーム兵器の発射角度を見て避ける程の反応力と運動能力を持つ。その外神姫としてはありえない怪力を発揮する事も可能。 自分が気に入った相手には積極的にくっつきたがり、気に入った相手なら神姫も人間も皆が大好き。『シラギク』とは厳しい師弟の関係で流石に頭が上がらず、べたべたくっついたりはしない。 『あははは。君、意外と強いんだね!』 ●『シーミュー』(Seamew) Type-Shinobi 神姫ショップ『ヘキサ』のオーナーであるラルフの神姫で、少し珍しい忍者タイプである。 基本的に忠実だがちゃっかりした一面もある。そんなところでラルフとかなり気が合う良き合方。 無表情な忍者型MMSに店番をやらせても看板娘にはならないので、一時代理や裏方活動や怪しい客の見張りをやらせているらしい。 どんなお客様が相手でも常に平等だが、自分達の神姫にも容赦ないミラには少し恐れつつも、内面では目的の為に強く生きているその姿に憧れている。震電とは同じ職場(?)仲間。 『偶に来るんですよね、御自分の神姫のスペックを考えないオーナーさんって』 ●『アムリタ』(Amrita) Medical-Specification Nurse-TypeMMS 神姫の新たな実用性を見出し、医療活動及びそのアシスタントとして開発された神姫。 既存の医療用ロボットには無い人間臭さと、武装神姫をベースとした事の有効性をテストする為に開発され、11体が加州L.A.聖サンタモニカ病院に導入された。 医療活動における判断力が求められる為にオーナーと言う概念がなく、集団のアムリタの意思統合により役割分担やその時に適した行動が決められる。また、コアユニット・CSC・素体は単一である。 通常状態は基本的な医学知識がプログラミングされており、三種の医療用パックを換装する事でそのパックにプリセットされているデータを一時的に使用する。(通常時に於ける記憶視野の拡張とコスト削減の為) 尚、名前は一般名称であり、基本的に個々に割り当てられたIDで呼ばれる。 通常の神姫とは開発思想も構造も異なり、医療機関の要求に合わせた受注生産となる為、1体だけでも医療用精密機械並み(推定:140万ドル)の価格を誇る。また、厳密的には神姫ではなく医療用機器に分類される為、世間一般への販売は禁じられている。 ●『パンドラ』(Pandora) Type-Angel ミラにとって初めての神姫。本編未登場(?)。 嘗ては米・オフィシャルバトルのマスタークラス8位、2396戦2396勝0敗と言う脅威の記録を打ち立てたという。 『METEOR』と言う会社の懸賞に当たった神姫で、オリジナルパーツや部品などで固められており、一般的な天使型MMSの性能を遥かに凌駕するものと思われる。 数年前のとある事件により現在は行方不明。出所不明な情報筋によれば、『神となった神姫』と言われているらしいが……?
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/824.html
初バトル、七月七日、七夕。 一ヶ月の間、私は数十店の神姫ショップを歩き回った。地元の茶畑が広がるような田舎では流石にショップはないので、電車で一時間、お隣の県の大都市まで足を伸ばしたり、バスで三十分揺られ最寄りの商店街をブラブラしたりした。 というのも、お兄ちゃんが買ってきた神姫、マリーは素体のままで武装やアクセサリは全く無かったからだ。私は特別バトルがしたいというわけでもなかったので、彼女が身に付けるものは彼女に選ばせようとして、彼女が気に入るものが見つかるまでいろんな店を回っていたのだった。 まずマリーはあまり実戦的ではなく、どちらかというと観賞用のウォードレスを選んだ。一応ワンピースのそれは防御力はあまり期待できないものの、フリルの可愛いディティールは全部自動迎撃用のレーザーガンで、また申し訳程度の飛行機能も付いていた。 「すごいすごい!マリーが浮いてる」 ふわふわとドレスの裾を揺らしながら彼女は私の周りを何週か回って見せた。 「便利ですわ」 彼女は私の左肩に着地した。それから私を見上げて微笑む。 彼女の笑顔は完璧、百点満点だと思った。 別の日、彼女はようやく武器を手にした。彼女は先に買ったウォードレスに合わせてその武器――ロンブレル・ロング(L'ombrelle longue)を選んだようだ。 それはどうみても、日傘。日傘(L'ombrelle)って名前付いてるし。武器の性能としては、ライトセーバーとライフルの能力を併せ持つハイブリッドウェポン。ライフルは威力も装弾数も実戦で使えるギリギリのレベル。まあ、早い話がこれもまた観賞用のアクセサリなのだ。 「可愛いよ、マリー」 「ありがとうございます。わたくしもこれで、いつでもバトルが出来るようになりましたわ」 マリーは傘を開いて傾きかけた日差しを遮る。淵の白いフリルが揺れた。 「え?マリーはバトルしたいの?」 左肩に座っていた彼女は私がそう問いかけると、浮き上がって私の胸前にやってきた。私が歩くのと同じ速度で移動し続ける。 「だってわたくしは武装神姫ですのよ?」 「いや、うん、そうだけど。だったらもう少し強そうな装備選んでもいいんじゃない?」 「ダメですわ。時裕様がわたくしは人形型だとおっしゃっていました。ですからわたくしは人形らしく振舞わなければいけませんの」 ああ、そういえば細かい設定は全部お兄ちゃんに任せていたな、と私はぼんやりと思い出した。神姫の性格がCSCの埋め込み方によって変わるといっても、もっと繊細なところはこちらで設定してあげなければいけないらしい。かなりめんどくさそうだったからお兄ちゃんに頼んだのだけれど、正直かなり失敗だったと思う。 「へえ、人形型なんだ」 「はい。人形型MMSノートルダムですわ」 勝手に決められたということを怒るよりも、私はやけに細かい設定に関心していた。 ノートルダムか、と考えると少しにやけてきてしまう。お兄ちゃんらしい名前の付け方だなと思ったからだ。 「でもバトルってどうやるんだろうね」 「とりあえず...ショップ設置の筐体で草バトルと呼ばれる非公式戦ですわ。」 私はふーんと鼻を鳴らしながら早速視線は最寄りの神姫ショップを探していた。 学校帰りの商店街には二店舗、神姫を扱う玩具屋があり、この近くにはそこしかバトル筐体を置いているところはなかった。 「あそこだね」 カトー模型店、商店街の長屋にあるお店としては大きいほうの店構えで、数ヶ月前に改装されたショップだ。もともと地味だった模型店がここまで立派になれるのも神姫ブームのおかげだろう。 午後五時半、私と同じように学校が終わった学生の神姫マスターたちが集まってなかなか賑やかだ。 「やあ、のどかちゃん、いらっしゃい」 「こんばんは、カトーさん」 マリーの装備を選ぶとき、最初に訪れたショップがここだった。お兄ちゃんもここの常連で、店長のカトーさんと顔見知りだということもあって、いろいろ相談に乗ってくれたのが強く記憶に残っている。カトーさんはここにないようなパーツを他の店にはあるからといって紹介してくれたりもしてくれた、いろんな意味でいい人だ。 「マリーちゃんもいらっしゃい」 「ごきげんよう、カトー様」 「ドレスモデルのウォードレスか。なかなか可愛い物を見つけたね」 マリーはスカートの裾を摘み、膝を折って行儀よくお礼をした。 「今日はお兄ちゃん、もう来ました?」 「時裕君?いや、そういえばまだ見てないなあ」 そうですか、と言って私は、私と同じ学校の学生服を着た男の子たちによってバトルが繰り広げられている筐体のほうへ視線を向けた。 お兄ちゃんは一度この店に足を踏み入れると三時間は出てこないので、もしお兄ちゃんが店にいれば、今日は止めておこうと思ったけれど、カトーさんの言葉を聞いていよいよ心臓がドキドキし始める。 「バトルかい、のどかちゃん」 カトーさんは丸い黒縁眼鏡を掛け直しながら言った。 「はい。初めてなんですけど...」 「そりゃよかった。やっぱり武装神姫はバトルが一番楽しいからねえ。次、席空けてもらうからちょっと待っててね」 そう言ってカトーさんはカウンターから出て、つかつかと盛り上がる一方の筐体のほうへ歩いていく。そして学生服の男の子たちと話始めた。 そのうち何人かが私のほうをちらっとみる。その中に同じクラスの藤井君の姿が見えたので少し手を振った。ただ私に気づいているかどうかはわからなかった。 「緊張するね、マリー」 「大丈夫ですわ。きっと」 少し経って、カトーさんは手招きで私たちを呼ぶ。私は背筋を伸ばして恐る恐る筐体へ向かい、マリーはその後を飛びながらついて来る。途中、やっと藤井君も私たちに気づいたようだった。 カトーさんの横にはこの店では珍しく、女の子が立っている。彼女もまた男の子たちと同じように私と同じ学校の制服、というか私と同じ制服を着ていた。 「丁度いい対戦相手が見つかったよ」 と言ってカトーさんは傍らの女の子の肩をぽんと叩く。 「彼女は先月神姫バトルを始めたばかりなんだ。ね、香子ちゃん」 「よ、よろしくお願いします」 その女の子は右肩に神姫を乗せたまま深々と頭を下げる。当然、彼女の右肩に座っていたジルダリアタイプの神姫は声を上げながらずり落ちた。しかしその神姫は落ちていく途中、一回転してから急に落下を止めて腕を組みながら少しずつ浮き上がっていった。 そしてそれに気づいた女の子が顔を上げて、その神姫のほうを見るまで口を尖らせ続ける。 「あ...!ごめんなさい」 「もう少しまわりに注意してくださいね、マスター」 「ごめんなさい、本当にごめんなさい」 女の子はすっかり私を忘れて彼女の神姫に謝り続ける。その様子をまわりの男の子やカトーさんがくすくすを笑った。 「も、もういいですっ。それよりみなさんが...その...見てますから...」 それが恥ずかしかったのか、女の子の神姫は少し頬を赤らめてどんどん声量を落としていった。 俯きながらちらりと私たちを見て、話を変えて、と訴える。 神姫でもそんな表情をするのか、と感心した私は急いで自己紹介をした。 「えっと、七組の月夜のどかです。こっちはマリー」 「ごきげんよう、マリー・ド・ラ・リュヌですわ」 女の子は思い出したように私たちのほうを見る。 「あ、はい、五組の斎藤香子です」 「ジルダリアのラーレです。よろしくおねがいします」 私の通う高校の一年生は、九クラス三百六十人。私は五組には一人も友達がいない――もちろん偶然だ――ので、彼女とは初対面だったことも納得がいく。 「じゃ、挨拶が済んだところで、早速バトルにしようか」 私も香子ちゃんも、そしてマリーもラーレも、そう言ったカトーさんのほうを向いてはい、と返事をした。 作品トップ | 後半
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2443.html
MMS戦記 外伝「敗北の代価」 「敗北の代価 2」 注意 ここから下は年齢制限のある話です。陵辱的な描写やダークな描写があります。 未成年の方は閲覧をご遠慮下さい。 深夜の闇に包まれた高層ビル群・・・生暖かい風が頬をなでる。 日本の近畿地方、大阪府のほぼ中央に位置する市、大阪市 大阪市は、近畿地方の行政・経済・文化・交通の中心都市であり、市域を中心として、大阪都市圏および京阪神大都市圏が形成されている。 古代から瀬戸内海・大阪湾に面した当時の国際的な港である住吉津や難波津などのある外交に関連した港湾都市として栄え、古代の首都としての難波宮、難波京などの都城も造営された。中世には、浄土真宗の本山であった石山本願寺が置かれ、寺内町として発展した。近世初期には豊臣秀吉が大坂城を築城し、城下町が整備された。江戸時代には天領となり、江戸をしのぐ経済・交通・金融・商業の中心地として発展。 第二次世界大戦中には大規模な軍事工廠が乱立し、大口径の火砲を主体とする兵器の製造を担ったアジア最大の軍事工場地帯であった。また、戦前中の日本では重工業分野においてトップクラスの技術や設備をもっていたため、官公庁や民間の要望に応えて兵器以外のさまざまな金属製品も製造していた。 あの戦争から100年たった今でも、その名残を残すかのように工場が乱立していた・・・ 2040年代 大阪 かつての首都「東京」は度重なる震災と不況によりかつての栄光は失われ、代わりに急速に新興したMMS産業の生産拠点として商業工業大都市「大阪」が何百年かぶりに日本の経済と人口の中心地を取り戻した。 だが、MMSを使った凶悪な犯罪組織やそれに結託したMMS企業が暗躍する魔都でもあった・・・・ 大阪港の端、貨物船やフェリーが静かに停泊している。その一角に真っ黒の巨大な豪華客船が停泊していた。 豪華客船のタラップの入り口で一人の若い短いホットパンツと薄いシャツを着た女が、携帯を弄る。 傍らには、完全装備の天使型がびくびくと怯えている。 □天使型MMS「ルカ」 Sランク 二つ名「スピード・エンジェル」 オーナー名「神代 麗」♀ 20歳 職業 フリーター ルカ「あああ・・・ああの!!ま、マスター」 神代「なに?ルカ」 ルカ「神姫が壊れるまで戦わせる地下非合法バトルってのがあるらしいですけど・・・怖い話ですね ・・・」 神代は携帯をぱこぱこ打つ。 神代「なに言っているの?いまからアンタ、それに参加するのよ」 ルカ「え・・・ええええーーーー!!」 ルカは目をぱちくりさせて飛び上がる。 神代「冗談、冗談」 神代はニヤニヤして笑う。 ルカ「ふーーーあ、焦りましたよー」 神代「今日はちょっと、裏の非公式バトルロンドを覗くだけよ」 ルカ「ふわーーー、やっぱり本当にあるんですね」 神代「よし、パスワードのメール送信っと」 神代はタラップの扉の前でメールを送信する。 ゴコン・・・船の扉がゆっくりと開く。 ルカ「あれれえ!?」 肩に神姫を乗せた黒いスーツを着た若い男が出迎える。 □シスター型MMS「マリー」 Aランク オーナー名「安藤 巧」♂ 25歳 職業 ??? 安藤「いらっしゃいませ、神代様」 神代がチラッと携帯の画面を見せる。 神代「ここかい?裏の非公式バトルロンドの会場は?」 安藤はニコリと笑う。 安藤「どうぞ、こちらへ」 すっと手を伸ばし案内する安藤。 ルカ「ええええーーー!?」 真っ黒の客船の中は綺麗に整っており、シャンデリアがきらびやかに光輝き、赤い絨毯が敷かれ、何十人もの神姫やオーナーでごった返していた。 いかにも怪しい風体をしたオーナーたちはテーブルを囲み、立食をしたり神姫の話をしたりして騒いでいる。 神代「これが噂の豪華客船『アヴァロン』か・・・」 安藤「MMSクルーズ客船『アヴァロン』総トン数50,142トン全長240.96 m、定員乗客数800名乗組員数 約440名、内装はすべて一級品、船内中央には大規模バトルロンドも可能なステージを搭載しております」 神代「考えたものね、豪華客船を使って裏の非公式バトルロンドの会場にするなんて・・・」 安藤「この船の船籍はとある外国のものとなっており、中は治外法権、ここではあらゆる非合法行為が可能となっております」 神代「アヴァロンという言葉は妖精の世界、または冥界を指す・・・ふふふ、非合法の武装神姫の裏バトルロンドをするには、これ以上ないくらいのエスニックの聞いた船名じゃない」 マリー「どこかにあるとされる伝説の島『アヴァロン』都市伝説でよく語られますが、実際に存在するのが本船です」 神代「これだけ派手に豪勢にやってるってことは、スポンサーと主催者はさぞかし羽振りがいいんでしょうね」 神代の目がキラリと光る。 マリー「ご冗談を・・・」 安藤はふっと不敵に笑う。 ルカはステージの中央で開かれている非公式のバトルロンドを見る。 非公式バトルロンド それは非合法MMS犯罪組織が主催する闇のバトルロンド・・・ MMSは、社会に多大な影響をもたらしたが、そういったMMSは2030年代後半にはかなりの数が普及し、全国に相当数の神姫センターが作られるようになった。だが公式の一般的で健全なスポーツ大会などの大衆娯楽に飽きてしまったマスターや神姫が多いことも手伝って、瞬く間に地下の非合法の間に浸透していった。 リアルデスバトルというものがある。実弾入りの重火器を用いて戦う、文字通りのリアルファイト。参加する神姫のギャラも、賭けの配当が高いが、MMSを破壊するだけでなく、CSCを完全破壊することも厭わない殺し合いである。一応、観客保護用のバリケードも出てくるものの、流れ弾に当たって観客が殺傷するケースも多い。しかし、そんな危険と隣り合わせの緊張感でさえも観客に興奮と刺激を与えるものとなり、実戦での緊張感が伝わってくるといわれる。 基本的に1対1で戦うルールだが、場合によってはハンディキャップマッチも組まれることがあり、大規模バトルロンドでは強ランカーMMS1体 対 通常MMS100体 という超変則マッチが組まれるようなハンディキャップマッチが行われることも多々ある。他にも泥レスに近いダートバトルに、複数神姫のチームによるバトルロイヤルなどいろいろなものがある。また、この手の非公式バトルロンドではよくある観客や審判の目を盗んでの反則行為や、八百長によるイカサマも後を絶たない。このような非公式の地下バトルロンドはMMS企業が開発したカスタム強化したMMSや新型MMS、イリーガル神姫の実験場としても用いられた。 その内容は時としてネットの闇動画サイトに流れ、堕落した神姫オーナーの暗い欲望を満たす為に放映される。 また非公式バトルに参加するオーナーは、戦いの緊張度を高めるために「賭け」を行うことが基本ルールとなっている。賭けるものはなんでも構わない、多いのは「金」「高価な武装神姫のパーツ」等など、多種多様だが、若い女性が金銭目的で大金を賭けて、自分には金がない場合は、体を差し出す場合がある。無論そのような勝負に敗北することが、それがどういう意味かは、わざわざ語るべくもない。そのような危険な賭け試合であるが、手軽に大金を入手することができるので、若者や青少年に人気が高く、社会問題にもなっている。特に未成年の女性が勝負に負けて暴行を受けてしまう事件が後を絶たない。 まさに、金に釣られて来るオーナーを堕落へと導く非合法のショーである。 ルカ「た、たんなる下らない都市伝説のひとつだと思ったけど・・・ほ、本当に実在するなんて・・・」 ルカはごくりと唾を飲み込む。その視線の先には、激しいバトルを繰り広げる神姫たちの姿があった。 右腕を失った悪魔型神姫がばっとビルの陰から飛び出す。それに向かって巨大な戦車砲を撃つ戦車型神姫。ズンと鈍い音を立てて、ビルが粉々に崩れ落ちる。 悪魔型がハンマーを振り上げ、戦車型神姫の頭を砕く。 ぐしゃあと心地よい音を立てて、戦車型神姫の頭部がざくろのようにはじけ飛ぶ。 悪魔型神姫のオーナーがガッツポーズをする。 オーナー1「よっしゃあ!!!10万ゲットだぜ!!」 戦車型神姫のオーナーはぐしゃぐしゃと頭を掻き毟る。 オーナー2「ちくしょーーー、ついてねえーー」 神代「賭けバトルか」 安藤「はい、ルールをご説明しましょう」 安藤はすっと大画面を指す。マリーが答える。 マリー「ルールは単純です。参加する神姫のオーナーは金品を賭けます。そして戦いに勝ったオーナーはその金品を得ることができます。また戦いに参加しなくてもあちらの方のように」 神代はバトルステージの端にあるやかましく叫んでいる男たちを見る。 マリーが丁寧に説明を行う。 マリー「彼らはハンディ師です。。その人が、それぞれの試合に対して、さまざまなハンデをつけていく。例えば先ほどの悪魔型vs戦車型なら、戦車型にハンデが2点与えられるといった具合だ。そうなると、悪魔型に賭けた場合、2点差以上で悪魔型が勝たないとその賭けは負けになってしまう。このハンデが勝負の妙を演出し、非常に熱くなれるポイントです。掛け金は最低1試合1万円が相場ですね。 また、単純に『強い神姫』に賭ければいいというものでもないことをご理解ください。ほとんどの武装神姫のハンデはほとんどが1.0などに設定される場合が多い。つまり、2点差をつけて勝てば儲けが出るわけですが、これが盲点です。強い新規ほど接戦をモノにする戦いをしています。分かりやすくいえば、1点差で勝つことができるのが強い神姫の条件ともいえます。ハンデが1.0で、1点差で勝っても賭け自体は負け。そういったことが多々あるギャンブルがMMS賭博なのです」 ルカ「うわー・・・なんていうかそれって・・・・」 ルカが呆れる。 神代「昔からよくある手よ、結局、親が一番よく儲かるような仕組みになっているのよ」 安藤「はい、ですので・・・直接戦って賞金を得る方が多いのが、MMS賭博の面白いところでも、ございます」 神代「金がない場合は?」 安藤「・・・・・男がカネを賭ける、女が身体を賭ける・・・と言った行為も可能と言えば可能ですが・・・」 安藤は品定めするような目で神代を見る。神代は腕を組み、安藤を睨む。 神代「ちなみに、私だったら相場はいくらかしら?」 ルカ「ちょ、ちょっと・・・マスター」 ルカがぐいぐいと神代をつつく。 安藤がパチンと指を鳴らす。マリーが後ろを振り向き、叫ぶ。 マリー「醜男!!来なさい!!」 ぎいいと扉の後ろからのそりと背筋の曲がった醜悪な容姿をした不気味な男が這い出てきた。 醜男「ふひへへ・・・お呼びですかい?マリーさん」 つんと腐ったチーズとイカのような悪臭が男から漂う。 ルカ「ひいい!!く、臭い」 ルカが後ずさる。 神代「・・・・」 安藤はニコニコしながら喋る。 安藤「この男は『醜男』と言いまして、品定めの達人です」 醜男はじゅるりと涎を垂らしながら神代を嘗め回すように喋る。 醜男「ほほォ、うまそうな上玉のメスだなぁ・・ふひへへ、あっしの子供でも孕ませてやろうか?」 神代「ふん・・・そういうことか」 安藤が諭すように優しい口調で話す。 安藤「あなたのような綺麗な方が、戦いに負ければどうなるか・・・お分かりでしょう?悪いことは言いません。よく熟慮してください」 ルカ「ひい、ま、ますたぁ・・・」 ルカは泣きそうな目で神代にしがみつく。 醜男「金目当てだが、なんだかシラネェが・・・自分の体が大事ならとっとと帰っちまうことだなぁ!!ふひえひえへえ」 神代「・・・・いくらだ?」 安藤「?」 神代「私の体はいくらだと聞いているんだ!!」 神代はきっと睨みつける。 安藤「・・・醜男」 安藤は残念そうな顔で醜男に振り向く。 醜男「ふへええ、そうだな・・・若くて健康で孕み頃の上玉のメスだ・・・一晩、本番有りで10万・・・一週間で100万ってところかぁ?」 醜男はげひげひと、呻きながら腰に刺さった電卓を叩いて計算する。 神代「・・・そんなものか・・・」 醜男「げひ、たった数分でこんぐれもらえるんだ、贅沢言ちゃあいけねえぜェ・・・お金は大切にしないとなッげひひひ」 ルカ「ま、マスターダメですよ!!絶対ダメです!!」 神代はルカを優しくなでる。 神代「大丈夫よ、今日はどんな感じか見に来るだけっていったでしょ?」 醜男「なんでェ・・・冷やかしかよ・・・けっ・・・ツマンネェ!!」 醜男はぷいっと背中を向けると、部屋に戻っていった。 安藤「む・・・そろそろ、本日のメインイベントが始まるようですね」 神代「メインイベント?」 マリー「哀れな美人女性オーナーの成れの果てです」 マリーはにっこりと笑った。 To be continued・・・・・・・・ 次に進む>「敗北の代価 3」 前に戻る>「敗北の代価 1」 トップページに戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/800.html
華墨にとって、その感覚は未知だったが、知識の範疇にある判例とその光景は酷似していた 即ち、悲嘆 そしてそれが思慕故に生じている事がありありと伝わって来ていた 泣き叫ぶヌルを見て、正直華墨は勝てる気がしなかった 自分はあれ程に感情を爆発させる事が出来るだろうか? させるだけの相手が居るだろうか? 誰かの為に涙を流す事が出来るだろうか? そして、今になってようやく、ニビルに対して抱いていた感情の正体が判りかけていた 多分、それは 初恋、それも、一目惚れの部類に属する代物だったのだろう だからこそ ヌルに勝てる気がしなかった ヌルと、ニビルを巡って争う事が出来る自信が、今の華墨には無かった 愛の深さが、違い過ぎる 思慕で、想いだけで、レベル差も、相性の悪さも埋めてしまったヌル・・・ だが それ故に今のヌルはか弱く、触れれば崩れてしまいそうだった それを支えてやろうとする意思も資格も腕も、今の自分にはありはしないと、華墨は感じていた 『バトル開始迄、5、4、3・・・』 そして今、弱者達の意思も事情も無視して、無機質かつ事務的に、今日最後のバトルが開始されようとしていた 「Unknown・・・Despair・・・aLost」 甲高い音を立てながら、白影となった『リフォー』が地を駆ける 今回のバトルフィールドは、ポリゴンで形成された様なデザインの、レトロなゲーム空間風だ 天井が低く、ウインダムがその飛翔能力を最大限に生かす事は不可能だろう 槙縞ランキング二位、アーンヴァルの『リフォー』 槙島ランキングに於いて、『ジルベノウ』『ズィータ」と並ぶ、徹底した非公式武装主義者として知られ、『バーチャロン』に登場した『テムジン系バーチャロイド』様の増加装甲、センサ付きバイザー、ダッシュブースター、剣銃を装備した機動力、攻撃力、装甲(注1)を高次元でバランスさせた強力なランカーであり、その装備に公式武装は一切使用されていない 『クイントス』の様に、あらゆる局面に対応する為の最良の装備を全て使いこなすタイプではなく、色々な局面に無難に対応出来る一つの装備を完璧に使いこなすタイプである その為、やや器用貧乏な感は否めないが、カスタムパーツ故のパーツ単位でのスペックの高さから、下位ランカー相手には極端な話、武器の性能だけで圧倒してしまう事も可能である 対するアーンヴァルの『ウインダム』は、公式武装のみで武装してはいるものの、機動戦闘装備としてはかなり洗練された部類に入るタイプで、火力は無いが粘り強さには定評があるタイプと言えそうだった 因みに、この装備に移行する前は、飛行タイプにありがちな、大推力、超抜トップスピード目的の、羽根やタンクがゴテゴテ装備されたタイプだったのだが、運動性の劣悪さ故に『タスラム』に勝てずに居た所を、テレビで見た『マイティ』の武装に感銘を受け、思い切ってコピーしたものである いずれにしても、一方は天の、一方は地の、という差はあれど、機動力に定評のあるランカー同士の闘いである 降格前は『ナイン』の一人でありながら一度も『リフォー』に勝った事が無かったとは言え、空中を自在に移動出来る分、やはり『ウインダム』の方がやや有利と言う見方が、観客の大半を占めていた (それにしても・・・あんな事があったと言うのに、ここの連中の集中力と言うか、勝負にかける情熱は異常だな・・・) 密かに、川原正紀は思った どう考えても『モア』の身を襲った異常は『モア』や『タスラム』自身に原因があるとは思われなかった 何故なら、同様の事件が過去にも起こっている事を彼は知っていたからだ (『バニシングフォー』・・・か。二年前の槙縞チャンピオン杯争奪戦の頃から連続している事件だ・・・やはり今回も起こったか・・・) 二年前の二月大会の折、当時の『ナイン』の一人でありランキング黎明期のランカーの一人であった『アントラコクマ』がバトル中に突如『オーバーロード』を発症し、バトル後にオーナー共々失踪するという事件が起こった 以来今日この日に至る迄、既に4体の神姫とそのオーナーが行方不明になったり、不自然な引越しをしたりしていた もし『モア』と飯島千夏が失踪したら、五組目の「消滅者」と言うことになり、『バニシングフォー』は『バニシングファイブ』となるだろう (警察も動いたりした様だが、結局満足のいく手掛かりは掴めなかったと聞くが・・・) そもそも大元を辿れば、その年の頭頃に、槙縞玩具店のオーナーの娘にして、『キャロライン』の本来のマスターであった槙縞 静が謎の失踪を遂げており、『キャロライン』は引退し、代わりに『クイントス』が急激に力を付け始めたのだった そして、『アントラコクマ』が失踪した大会で、『クイントス』は優勝し、槙縞ランキングの女王となったのだ (そんな状況にも関わらず、神姫はおろかそのオーナーの闘争心迄引き出してしまうとは) やれやれ、と正紀は肩を竦めた クイントスの演説、クイントスへの挑戦権というのが、こう迄皆を戦場へ駆り立てて行く様が、彼にとっては半ば不気味ですらあった 少なくとも、『アントラコクマ』以外の3人と、今回の『モア』は、動機はどうあれ、形としては『クイントス』に挑む道の途中で失踪し、消えてしまったのだ (北欧のオーディン神は、これと見込んだ勇者の魂を『戦乙女』を使って刈り集めるというが・・・) そういった迷信めいた符合は、決して正紀の好む所ではなかった 輝く弾丸が連続して『リフォー』のライフルから放たれ、空中に輝線をいくつも描く 狙いは正確かつ二の手を読んだもので、『ウインダム』は二度程、被弾寸前の憂き目を見ながらも、一度も有効な反撃が出来ずに居た 大方の意に反して、勝負を優勢に進めているのは、戦場を自発的に選べない筈(と思われていた)の『リフォー』であった 超高速かつ長射程のHEMランチャーを『ウインダム』は備えていたが、電力をチャージし、狙いを付ける迄の僅かな間を巧く稼がせて貰えず、中距離以上に対しての有効な反撃手段が乏しかったのが原因のひとつであろう この点は、地形が『リフォー』に味方したと言えるだろう だが、弾幕密度の薄さの割りに、悉く『ウインダム』の「距離を取ろうとする動き」を制して見せるあたり、流石ランカー二位と言って良いだけの実力を、『リフォー』はしっかり持っていた 「強ええ・・・!流石だぜ」 武士が我知らず声を漏らしていた 「ああも戦況をコントロールされたんじゃ手も足も出ないぜ・・・華墨、お前ならどうする?」 「・・・あ?あぁ、私か?私なら・・・そうだな・・・多少の被弾は覚悟の上でダッシュで間合いを詰めるしかないだろうな・・・だが・・・」 ヌル達が臨時の控え室に戻っていった方向を見つめながら考え事をしていた為、やや反応が遅れたが、華墨はすぐに戦況の分析を始めた 「だが?何だよ」 「あれを見ろマスター。『リフォー』の左腕には右腕には無い青いカバーがかかっているだろう?」 「あぁ、言われてみれば確かに」 確かに、『リフォー』の左前腕には、ガンダムNT-1ライクな蒼いカバーがかかっていた リフォーの右腕のライフルは、大剣とライフルを兼ねるが、中距離よりやや遠めに、三発程纏めて発砲して確実に当てるか、でなければ一気に接近して叩き切るといった、割合大雑把な武器の様だった となれば、中近距離以近の弾幕生成火器は、恐らく見た目そのままに、左腕のカバー内に仕込まれたガトリング砲か何かであろう・・・と華墨は分析した 「地対空で使うより地対地で使った方が良いだろう・・・それが判っているから恐らく『ウインダム』は接敵する機が無いのではないか?」 「お見事!なかなか相手の戦力分析も様になってきたじゃないか!華墨」 「褒めても何も出ないぞ」 逆に言えば、あれだけコンパクトに収められた隠し武器なのだから、恐らくそれ程弾数が無く、使用の機会は慎重に検討しなければならないという事だ 「攻略するとしたらその中距離をどう凌ぐかだが、凌いでも白兵戦になったら私には厳しいかも知れないな」 「ほう?何でだ?」 「あの大剣銃の方が私の武器より間合いが広い。飛び込めたらあの図体だ、容易には揮えまいと思うが、装甲もかなり分厚いし、その癖速いからな・・・なんて良い所取りな装備だっ!?」 言いながらも、ヌルならばその理屈上の差も埋めてしまうのではないかという、根拠の薄弱な思い込みが華墨の中に根付きつつあった 感情によるパワーアップ・・・理屈ではなく。例えばあと一歩を踏み込む度胸が無い所を、踏み込ませてくれるのは想い一念、マスターの激励であったりちゃちなプライドだったりするのだろう 現に自分も「その効能」にあやかって勝ちを繋いだひとりである事を、華墨は理解していた だが同時に、その脆さも既に判っていた (信念や思い込みだけで勝てるなら誰も苦労しはしない・・・そも結局『ホークウインド』はそのプライド故に敗れたのではなかったか?) だからと言って、勝つ事のみが至上で無い事も、華墨は充分には理解していないという訳ではなかったのだが 重い音と共に、『ウインダム』の翼が火を吹く 遂に被弾してしまった様だったが、『ウインダム』はバランスを崩したかに見える体勢はそのままに、きりもみ回転しながらもまっすぐ『リフォー』に向けて落下していた 否、落下ではない・・・それは、狙った急降下だ 人間ならば即失神は免れ得ない恐るべきスピードで『ウインダム』は降下する、その間、遂に封印を解かれた『リフォー』左腕の機関銃が火を噴く 装甲が弾け飛んでゆく『ウインダム』だが、全推進機器を直線状に並べた『ウインダム』の速度は『リフォー』の予想を僅かに上回り、また、きりもみ回転の回転径を見誤った『リフォー』の機銃は、思ったより遥かに集弾率が悪かった ずしん ショックウエーブを大量に纏っての突撃攻撃・・・本来『リフォー』の様な相手にはそうそう当たるものではない愚策と言えよう だが、今回の勝負はまさに『運』が二人の動きを決定したと言って良い フィールドが『ウインダム』に不利な場所だったのも運 『ウインダム』のきりもみが『リフォー』の予想外の軌道を描いたのも運 余り有効性は期待されておらず、事前に外す事迄話に上がっておきながら、外し忘れたと、後に深町昭は語っているが、背中に実剣を装備していた事が、結果として『ウインダム』の勝利に貢献したのもまた『運』 逆に言えば、運程度で変わってしまう程、両者の戦力は拮抗し、また、危うい均衡であったという事の証左でもあった 衝撃と回転、そして『リフォー』の装甲との衝突に耐えられなかったアーミーブレードが折れ曲がっている 当の『ウインダム』本人が、自分の勝利を知覚するのにジャッジマシンのアナウンスを待たなければならない有様だった 華墨その勝負の有様に寒気すら覚えていた (私は・・・まだまだ未熟だ・・・あれ程の闘いが、私に出来るだろうか?見ていた物の記憶に残る様な闘いが?) 姑息な手で勝利を掴み取った忍者との闘いを脳裏に浮かべ、そして彼女らの誰よりも強いと言われる『クイントス』の、まだ見ぬ力に思いを馳せた 拳を音がするほど握り締めた華墨の背中を、武士はやさしく撫でてやるのだった ともあれ、これで決勝リーグに進出する武装神姫8体が出揃ったのである 即ち、 『ニビル』 『ズィータ』 『ストリクス』 『仁竜』 『タスラム』 『華墨』 『ヌル』 『ウインダム』 この八体の優勝者が、『クイントス』と闘う事になるのだ・・・! 川原正紀はミラーシェードを外し、今度こそ店の外に出た いつの間にか曇り空になっており、明日あたりから荒れそうな空模様だった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ 注1 武装神姫のレベルで言えば、軽量AC並みのボリュームの『ジルベノウ』も、テムジン並みのボリュームの『リフォー』も、かなり厚手の装甲を纏っている格好になるのは、武装神姫をいじった事がある人ならば判ってくれる物と思う
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2652.html
休日。 昼の中頃。ゲームセンター前。 「ついにこの時か」 「そうですね、ここまでの日がものすごく長く感じられたような気がします」 目の前には入口、僕たちはいつものゲームセンターの扉前に立つ。 今日は宮本さんイスカたちとの戦いの日だ。 家出していたシオンを拾ってから今日まで色々なことがあったが、今日でどのような結果であろうとも決着がつく。 もちろん勝つつもりでいくつもりだ。 だが、イスカは淳平の神姫ミスズを簡単にあしらった神姫だ。 実力差が当然ある。 負ける可能性のほうが多い。 (あー! 駄目だ駄目だ! こんなネガティブになってちゃダメだ) パンッ! 「よっし、行くぞ!」 「きゃ、螢斗さん? どうしたんですか」 「な、なんでもない。行くよ」 両頬を思いっきり痛いほど叩いて気合いを入れた。 暗い思考を追いだすように。 頬を叩いた音にシオンがビックリしてしまったが、今は……存外自分でやった頬が痛かったので説明はなし。 見渡せばいつもの通り、学生ぐらいの人たちがちらほらといる店内。 今日は誰も仲間を呼んではいない。僕らは自分たちでケリをつけなくてはいけないからだ。 僕たちはただ単に今日バトルをするだけの客。それだけだ。 そして、奥を見れば、異彩な雰囲気を放っているオーナーと悪魔型神姫がいる。 凛とした態度の宮本さんと、赤い大剣を持ったバイザー姿のイスカだ。 「こんばんわ、長倉君とシオン」 「こんばんわ」 僕と宮本さんはいつもの挨拶を済まし、視線を合わせる。 あちらはどう思っているのだろうか。 元々持っていた自分の神姫と戦う事。様々な思惑が渦巻くこの戦い。 本当に僕はあの日から奇妙なことに首を突っ込んでしまったなと思った。 でも後悔はしてない。 「ステージは廃墟街でもいいかしら?」 「はい、大丈夫です」 好都合だ。この前にアリエと戦った場所なら有利に働くかもしれない。 でも、指定してくるという事はあちらとしてもメリットがあるのかもな。 「…………」 そう思ってからイスカの方を見ると、イスカはもう宮本さんの元を離れ筐体のオーナーブース前に一人で行ってしまった。 本当に何も言わないんだな。 前口上とかシオンに対しての挨拶とかはないのか。 宮本さんはイスカを横目で見るとシオンに話しかける。 「ごめんね、シオン。イスカは認めたくないのよ。あなたが私たちから離れてバトルできるようになった事実がね」 宮本さんは悲しそうな顔でそう言う。 「でも……」 シオンは言葉に詰まりながらも、なにかを言おうとするが。 宮本さんはそれを制して首を横に振る。 「私ももう少し真剣にあなたを大事にしていれば、長倉君みたいにバトル恐怖症を治せたのかもしれなかったわ」 「もう取り返しがつかないのにね」と最後にフフっと自傷的につぶやく。 それは悲しすぎます、宮本さん。 あなたは存分に大事にしていた。ただ、みんなの中で行き違いがあっただけでイスカだってシオンの事をわかってくれれば……。 僕はありのまま考えたことを言おうとした。 でも、先にシオンが宮本さんを見上げて話していた。 「私は逃げてしまいした。それは確かに変わらない事実です。……でも、私はマスター宮本 凛奈さんの武装神姫であったことを後悔していません。もちろん拾ってくれた螢斗さんのことを誇りに思っていますが、私は今も凛奈さんを大事に思っています。お姉ちゃんにも私から全部話します……だから、そんな悲しそうな声を出さないでください」 穏やかに優しく、恨みなどまったくないことを示すシオン。 「……ありがとう、シオン。いいバトルをしましょう」 清らかなシオンの瞳から底が見えたのか、顔をそむけてから礼を言う宮本さん。そして宮本さんも台について行った。 僕が言う前にシオンが全てを言った。 シオンの方がよっぽど宮本さんがわかっている。 いや、それは当り前なんだよな。元々あちらの神姫なんだ。 僕が説教臭いことを言っても、シオンの言葉の方が何倍も説得力があることだろう。 と、僕が深く考え込んでしまったのをシオンは見ると、何を勘違いしたのか慌てて言い訳をしだした。 「いや、大事に思っていただけですよ! けど、今の私には螢斗さんが一番というか、私自身にも言い聞かせる為にあんなこと言っただけでして、他意はないんですよ!?凛奈さんにも悲しい顔をしてほしくなかっただけでして……あうー、なんて説明すれば良いんでしょうか……」 「ふふふ」 そんな必死に言い繕うシオンを見てたら、なんだかおかしくなり笑ってしまった。 「あ、なんで笑うんですかー。私は本気で螢斗さんのことを――」 「わかったって、ありがとうな。シオン」 「もう、……うふふ」 シオンを可愛く思い頭を撫でる。 シオンのこんな姿を見てたら嫉妬とか馬鹿らしくなった。 今は思いっきりイスカとバトルすることを考えよう。 “壁”を乗り越えるための戦いをするために。 「じゃあ、いくよ。シオンの為の最後の戦いに」 「あ、はい。螢斗さん、頑張ります」 ―――― 廃墟街のビルの上。 シオンは廃ビルの間を飛び飛びでブースターを使い疾走していく。 索敵中だ。センサーで大まかな場所すらわからない。イスカはジャマーの装置でも積まれているのか、いまいち居所がつかめないらしい。 だからこちらは高い場所から探しているのだけど、なかなか見つからない。 あの大剣を持っているか、持っていないか、で速度が違うのだろうか。 「イスカはこういう時どんな行動するかわかるか?」 「お姉ちゃんのバトルでは……こういう時奇襲をして一発で決めていることが多かった気が……」 「うそ!? それを先に言ってよ。止まって、シオン!」 「は、はい。すいません」 ビルからビルへ移動していたシオンは身体を急停止させる。 現実であれば、地上10階ぐらいのビルの屋上。縦幅横幅共に人間サイズでいう30メートルぐらいのそこにシオンは立ち止まった。 奇襲なら、広いこの場所だったら、どこから来ても大丈夫だ。 「使い物にならないけどセンサー、共に感覚を研ぎ澄ませて探ってみて」 「はい……………」 どちらから来るだろうか。横からか上からか。 はたまたそのまま、登ってくるのか。 階段使って登ってくるなんてシュールな。普通神姫は飛べるパーツを付けてるんだからそんなことをする必要はない。 前に見たバトルでイスカはすごい跳躍力を見せていたけど、あれで高速で跳んで来たって視界は開けているんだから油断することはないと思うけど。 登ってくるか……。 登る――。 『シオン、そこから右に跳び退け!』 「え」 『いいから』 そこから、シオンは瞬時に判断、リアも気にせずぐるんと勢いよく横に転がった。 ドォンッ! と先ほどまでいた地面の床、コンクリートが盛り上がり中からイスカの姿が出てくる。腕にはミスズを仕留めたあのパイルバンカーだ。あれを使って下から仕留めるつもりだったらしい。 いきなりあんなもの持ち出してきて、本気で一発で仕決める気だったのか。 間一髪だ。 「……く、気付かれていた上にまさか避けられるとは。確かにここまで戦えるようになっているということか」 このステージを指定したのは一撃必殺のこの為だったのか。 姿を現したイスカは憎々しげに言いながらパイルバンカーをパージした。 もう使う気はないみたいだ。最大威力の一撃をもう確実に当てられないと思ったからだろう。第一あれは重そうだしな。 「螢斗さんの指揮がなかったら危なかったですけどね……」 「……キサマと違って、できた良いオーナーみたいだな」 「ふふ、確かにですね。私には勿体ないマスターです……ですけど、私はそのマスターの為に」 スッとフェリスガンを構え相手に向ける。 「お姉ちゃん、あなたを倒します」 「……面白い、行くぞ」 今のところ、あの大剣は持っていない。 転送され代わりに出してきたのは二丁の黒いサブマシンガン。それをシオンに構え返すイスカ。 痛いほどの静寂が場を包む。 先に動いたのは――シオンだ。 シオンは真横にブースターをかけながら、ビルの外に身体を投げ出す。 それを追いかけ、イスカもサブマシンガンを連射させ弾線を作りながら同時に屋上のエリア外に駆ける。 空中に投げ出されてシオンはその場に足場があるがごとく、空をうまく駆けていく。 イスカは速度を付けてビルを駆け下り、重力がないかのように衝撃を殺した後、先に下から地面についてもなおシオンに銃弾の嵐を浴びせてくる。 対するシオンは弾を空中で加速をつけながら避けつつ、フェリスファングをプレシジョンライフルに変換させ、量より質でいく気だ。 もちろんイスカも黙って見ているわけではないので、常に動き続けながら下から休みなく弾を撃ってくる。 それによってシオンも避けながらでは狙いが付けられない。 どちらも動いているからだ。 だが、その内シオンのブースターはオーバーヒートによって動けなくなる。ずっと空中を飛んではいられないから地面に降り立つ必要がある。 『シオン、そこから移動して、ビルの間へ!』 答えを返すほどの余力がないのか、僕の声を聞いて瞬間横の路地に飛ぼうとする。 だが、 路地に飛ぶ前に――目に捉えない程の速さでイスカの姿がシオンの真上に。 視界に捉えた瞬間。 「……遅い!」 「つうぅっ!」 イスカはサブマシンガンを空中で捨ててからビルの壁を三角蹴りの要領で蹴り、シオンの頭上から前転宙返りの回転かかと落とし。 シオンはそれに気付き、両手でプレシジョンバレル越しに重ね合わせ、それを受け止めた。 「……それでいて、甘い!!」 イスカは腰につけた補助ブースターを起動させ、かかと落としを放った状態から空中で器用に身体を返してから足刀の横蹴りを行った。 「ぐぁっっ!!」 その力が加わったことにより、シオンは新幹線ぐらいまで加速してメインストリートのビル壁にまで吹っ飛ばされ叩きつけられた。 ヒュンッと風を切る音だけを残して、ビル壁の中心を崩して中に突っ込まれるシオン。 ビルからはもうもうと煙を上げていて、イスカは地面に降り立ってシオンの突っ込まれたビルの前に行く。 転送されてきたのはあの緋色の大剣。 それを両手で持ち、叫ぶ 「……まだ終わりじゃないだろ!」 そう。まだ終わりじゃない。 ――まだシオンは生きている。 「……!?」 穿たれた壁、灰色の煙を上げてある場所の煙の風向きが突然丸まった。 そして、そこから飛び出てくるのは傷だらけのシオン。 両手で真下にいるイスカに構えたる武装は今のシオン最強武装「プレシジョンエクストリーマ・シューター」 「くらえぇーーーー!!」 下にいるイスカに向けて、全力で声を上げエネルギー砲を放つシオン。 「……あぁーーーー!!」 イスカは雄たけびを上げ、大剣の柄を左手で掴み、その刃を右手で自分が傷を負うのも関わらず握り、横にしてそれを真っ向から受け止める。 刃の先から真っ二つに裂かれる橙色の光砲線。 その威力からかイスカの立つ地面は次第にひび割れ、沈み込んでゆく。 それでも、受け止めているイスカが歯を食い縛りながらも動きを見せる。 「……ぐぅ!……ッ消し飛べぇ!!」 右手を柄に戻し、勢いよく縦半円にフルスイング。 光砲線はイスカから反射したように直角に曲がり右方向に真っ直ぐ飛んでいき、通りにあった欠けた電柱が折ってから後に奥のビルに爆発が生まれた。 「はぁはぁ……そんな」 シオンは必殺の武装が効かなかったことで微かに狼狽してしまっている。 ダメだ、まだイスカは――。 「……どうし……った!!」 イスカは膝を沈み込ませてから、力を上に向け、ジャンプ。 浮かんでいるシオンの下まで来ると、身体ごとさせて回転力を大剣に乗せた縦回転斬りをシオンに仕掛けた。 「……つ……は」 シオンは大剣の衝撃をもろに受けた。 それにより頼みだった『プレシジョンエクストリーマ・シューター』はフェリスガンごとバラバラに砕かれてから、光砲線と同じ方向にシオンも声にならない声を出し吹っ飛ばされていった。 数メートル先、メインストリートの端まで、飛ばされて地面に数回転がってから 横向きに倒れてやっと止まった。 『シオン!! 大丈夫か!!』 僕は声を張り裂けて叫ぶ。周りの観客も僕の悲鳴に近い声にどうしたかと筐体に集まってきた。 だが、ぼくはそんなの気にしてられない。 シオンはバトルで、これほどのダメージを負ったことはまだ一度だってない。 それゆえにシオンが死んでしまうのではないかと、不安でたまらない。 バーチャルでもダメージの酷さは変わらないんだ。 CSCの精神的に死ぬなんてことも……それは嫌だ! 「かはっ! ……うぅ、ふぅ、まだいけます。フェリスガンを盾にして、なんとかこれで済みました」 シオンは口から血のような、オイルのような黒い液体を吐きだした後、腕を支えにして、四つん這い状態から腹を押さえてなんとか立ちあがった。 これで済んだ、ってすでに満身創痍じゃないか。立ってられるのも不思議なくらいのダメージを負っているのが目に見えてわかる。 これ以上は見ていられない。 もう降参して終わらせないと。 「……螢斗さん、はぁ……サレンダーしようとしてますね?……ダメですよ……はぁ」 『なんで!? もうこれ以上やったって勝ち目がない。フェリスガンも壊れて、もうぺネトレート・烈とかの近接武装しかないじゃないか!』 「ふふ……そうですね」 「笑っている場合じゃないよ! イスカは大剣使いのストラーフ。アリエみたいに小細工が通用する神姫じゃない」 話のイスカはもう勝ったと見ているのか、シオンのいる方に歩いてくるだけだ。 「確かに……ですけど……このぺネトレートクローに“力”があったらどうします?」 「え、」 一瞬シオンの言った意味が分からなかった。 でも、それはまだ分からないままだったんじゃないか。 「ようやく、わかったんです。これの正しい使い方を……」 シオンは横腹を押さえていた手を両手が空いた状態に戻し、ぺネトレートクロー・烈を腰から取り出した。 思えばよく無事だったよな。飛ばされまくって傷がないなんてどんだけ頑丈に作られているんだ。 シオンはそれを両手ずつに持ち、自然体でリラックスさせている。 いまだにイスカはそれをただの悪足掻きだと見ているのか歩みはゆっくりだ。 「はは、……私って馬鹿ですよね? 今までなんでこんな事に気付かなかったんだろう。私はアーティル型なんだから、きっかけはいくらでもあったのに。……でも、ようやく分かったんです。もう、私は逃げないから。私は山猫型MMS神姫アーティルのシオン。マスター長倉 螢斗の武装神姫です…………すぅ、はぁ……」 自分の事を再確認するかの如く呪文のように自分の名を言う。 目を瞑り、深呼吸。精神集中をしたのち、ぺネトレートクロー・烈を構え。 そして、次の瞬間、高らかに叫んだ――。 「 テラ根性!!! 」 ――声を上げた時、ぺネトレートクロー・烈の先から眩いほどの光刃が出現し出した。 交差させた二つともから、神姫サイズの片手剣程の刃が。 西洋の剣『ジャマダハル』の形状に似た剣が生まれ出た。 あれの出現条件はあの発声なのかどうかはシオンにしか分からないけれど、これで勝負がまだ終わってないことを僕は知った。 まだシオンは戦える。 戦えるんだ。 「まだ終わりませんよ。姉さん!」 シオンはニッと不敵に笑い、前にいるイスカを見据えてそう宣言をした。 前へ 次へ
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/81.html
武装神姫のリン 番外編 「リンの某日の記録」 私の名前はリン。 武装神姫「TYPE DEVIL STRARF」です。 今日は休日でしたがマスターは臨時のお仕事で朝早くから出かけてしまいました。 しかもティアは定期点検(違法ドーピングの後遺症の検査で昨夜からセンターにいます) なので私は今日一人で過ごさなければなりません、しかも今日は公式大会の日でサーバーがメンテナンス(マスター曰く公式大会は有名ランカー目当てでユーザー以外の観客も含め、会場に人があつまるため、アクセス数が激減するらしくメンテナンスには絶好のタイミングだそうです)されるので訓練用のデータの配信が行われません。 現存のデータで訓練を行うことも出来ますが私はすでにPCに保存されている全てのパターンをコンプリートしてしまい、物足りないのです。 かと言って私一人ではゴーストのデータも接近戦に偏ってしまうため、課題の遠距離戦の練習にはならないのです。 ということで私は今日1日をのんびりと過ごす事に決めました。 まず私はTVの電源を入れました。そして最新作品から過去の名作まで、アニメーションを随時放送しているチャンネルに切り替えます。 するとそこには以前のイベントの時に貰ったマントを羽織り、あの可変式の武器を持った金髪の少女が戦っている映像が映し出されました。 番組表を見ると「魔法少女リリカ○なのはA's」と書かれています。 その少女は武器を変形させます。 すると黒い突起から金色の光の刃が出現しました。 その武器はまるで死神の鎌の様です。 そして彼女は瞬時に加速、相手の剣士(こちらも女性でした)の裏を取り、切りつけます。でも相手は剣の鞘でソレを受けて反撃しています。 『魔法少女』というタイトルからは想像できない激しい肉弾戦に私は目を奪われ、最初はバトルの参考になるかも?と思っていた見ていた私ですが、次第に物語も気になり始め結局最後の最後まで見続けてしまいました。 最後のエンディングにそって成長した彼女たちが歩く映像を見ているうちに私はあの武器とマントを付けてみたいと思いました。 クローゼットからマントを引っ張り出し、可変式の武器(完全変形の上、あの光の刃までもが再現されています。リアルバトルにも対応と説明書には書かれていました。) しかもパッケージをよく見るとあの少女の衣装までセットになってました。 マスターは見落としていたみたいです。 あの様な露出の激しい衣装は恥ずかしいのですが、今は私一人なので勇気を出してみました。 サイズはぴったりで仮に私の髪が金なら彼女にかなり近づいているはずです。 黒を基本にベルトと白いフリルでアクセントを加えられた、とても動きやすいものでした。 鎌形態の武器を構え、私は見よう見まねで鎌を振り下ろしてみました。 シュンという風切り音が静かな部屋に響き、私の目の前にあったアルミ缶は真っ二つになりました。 切れ味はすばらしく、これならアーンヴァルのライトセイバーにも引けを取らないと感じました。マスターが帰宅したら真っ先に進言したいと思います。 次に私が試したのはあの、マスターが私に隠していた小説のキャラクターのドレス。 話の内容はともかく、ドレスは気にいってたので袖を通してみました。 とても豪奢なドレスは着るだけでどこかのお姫様になった様に感じさせてくれます。 しかし、一緒に入っているのは三つ叉の鞭のみ。物語の主人公の魔界のプリンセスが持ち主というだけあって過激な武器です。 さっきの空き缶に向かって鞭を振ります。 缶の表面にはくっきりと鞭の先端の形のへこみができました。 こんなにも痛そうな武器(実際のダメージの度合いというよりは私の心の問題です。)は使いたくありません。 でも、時々この部屋に出没する黒色の侵入者を狩るための有効な手だてとなりそうだったので保管しておくことに決めました。 そうして試着を終えた私は、あの小説を読んでみることにしました。 俗に言う官能小説の一種ですがドレスを来ているうちになんとなく気になってしまいました。 そして自分とほぼ同じ大きさの文庫をセカンドアームで棚から引き出し、読んでみました。 最初はふつうのファンタジーでしたが途中から雰囲気が変わります。 胸やお尻といった身体のさまざま場所を触られ、艶のある声をあげる主人公。 ふと私は自らの胸を触ってみました。 確かに私たち武装神姫は人とほぼ同じ触覚を持っていますが、私たちからすれば女性が身体を触られるだけなのに何故これほどの反応をするのか理解できなかったのです。 でも小説に書かれているように胸に手を這わすうちに、身体の中心が熱くなるような感覚を覚えました。 しだいに心地よい感覚が体中に広がっていきます。 そして私は遂に神姫には倫理上再現されない秘部に手を伸ばし、あるはずのない亀裂に指を這わせ、少し強く擦ってみました。 その瞬間頭部の回路にとても強い信号が流れ、私はある種の幸福感に満たされました。 「マスター、ハァ…ハァ。マス…っ………タァ」 そうして、気がつくと私は激しく身体をくねらせながら自慰(小説内で説明されていました)に浸っていたのです。 自分が自分でなくなるような不思議な感覚に包まれ、最後にはマスターの顔を思い浮かべながら意識を失ってしまいました。 目を覚ましたのはもう空が茜色にそまる夕暮れ時。 こんな時間にまで意識を失うとは・・・・と思っていたところに。 「お・姉・さ・ま?」 私が背後に目を向けるとソコにはセンターにいるはずのティアが立っていました。 「お姉さま一人で・・・・ズルぃ」 そうし熱の篭った瞳で私を見つめるといきなり私に覆いかぶさって、まだ敏感になっている私の乳房を舐め始めました。 「ひゃ…うぅ」 「あら、お姉さまって敏感なのですね。 カワイイ☆」 そうして次は私の耳にやさしく噛み付くと、右手でお尻、左手で乳房を愛撫し始めました。 「ああ…テ…ィア。 ダメ…だっ……ぅて」 「まだまだですわ、ここからが本番ですわよ。お姉さま」 そうしてどんどん愛撫する手の動きが激しくなり私の頭の中は星で埋め尽くされていきます。 がくがくと手足が震えだし、焦点が定まりません。 そして、あの幸福感が迫ってくるのが分かります。 「コレで、、、、、終わりですわ!!!」 ティアの右手が私の秘部に手を伸ばし、秘芽を指でピンと弾いた瞬間、私はまた気を失ってしまいました。 再び目を覚ました私の目の前にあったのはティアの秘部。そうして私が覚醒したことを確認するとすぐにティアは私の顔に秘部を押し付け、私の秘部をその桃色の舌でもてあそびます。 「ふぅ…お姉さま、今度は私も攻めてください」 そうして私にも同じことを要求します。 もう私はなにがなんだか分からなくなって、言われるがまま、ティアの秘部に舌を当てます。 「はァァァ 、そうお姉さま。もっともっと私を弄ってください。」 そうして一心不乱にティアの秘部を蹂躙します。そうするとティアも仕返しとばかりに私の秘部を優しく甘噛みしてきます。 それから数分が経ち、こういった刺激にやっと身体が慣れたのか、頭が少し冷静になりました。 そして先ほどのリベンジを開始します。 小説にあった手法でゆっくりと内股を指でなでてやり、またお尻にも舌を這わせます。 だんだんとティアの反応が大きくなってきました。 「あれ…お姉さま。 急にお上手に・・ぅんあ!!」 いきなりティアの身体が反り返りました。どうやら私の攻めが効いてきたみたいです。 ここぞとばかりに股間に頭をうずめて秘芽を攻め立てます。 指でこねくり、舌でゆっくりと刺激を加えて仕返しに弾いてやります。 「ソレ、ソレですお姉さま。 もっとください。」 ティアは全身に汗(実質は冷却液)と涙、そして大きく開けた口からよだれをたらしたまま私に懇願します。 「ティアももっとして。貴女が始めたんだから」 私は人が代わったかのような命令口調で言います。やっぱり私は今興奮したままみたいです。 そうしてそのまま身体を反転。 ティアに正面から抱きつくような姿勢で互いの唇、乳房、股間を押し付け、こすり付けます。 ティアも脚を絡めて私に応えます。 「お姉さま!お姉さまぁん! イッちゃう、イッチャいますぅ!!!」 「まだよ、我慢して。そうじゃないとやめちゃうんだから」 「え、ダメダメダメ!! 我慢しますからお願い!!」 私も体液を全身に噴出させながらティアと絡み合います。 秘芽がこすれるごとに私もさっきの幸福感-絶頂へと近づきます。 「ティア、もう少し。もう少しよ、私も…イきそう」 「もうだめ、もうだめダメ、もうだへでふ、おねへさまぁう!!!」 「ティア、私もだ……ふゅうん」 もう2人は言葉を交しません。 もうお互い後がありませんでした。 私はさっきまで背負っていたのをわすれていた、セカンドアームの鋭い指先で自分と、ティアの秘部に触れました。 「うぁぁはぁぁあぁ!!」 「く、きゅぅぅうう!!」 そうして私達はまどろみに沈んでいきました。 覚醒したのは私が先。 でもさっきまでの自分の言動や行動が自分でも理解不能です。 あんなに「攻め」ちゃうなんて。 自分自身でもソレを思い出すと身体が疼くためそれはやめました。その後はシャワーを浴びて、まだ眠っているティアの身体を蒸しタオルでふいてあげて、ベッドに寝かせた後は片付けをしなければいけませんでした。 なんと、いろんな物的証拠をすべて処理し終わった1分後にマスターが帰宅したのです、後少し対処が遅れれば危なかったです。 あんあはしたない行為の跡をマスターに目撃されなくて良かったという安堵も束の間。 知らない間に起き上がったティアがマスターに耳打ちしようとしているではありませんか。 私は恥をしのんでアームユニットで壁を押し、そのまま「隼」を華麗にティアに決めていました。 もちろんそのあとマスターに質問されましたが、なんとか真相は解明されずにすみました。 でもティアには以前よりもっと私になついた(マスターによればたまに、服従してるように見えるとか……)みたいです。 とりあえずこんな感じで私とティア、2人だけの秘密が出来ました。 マスターにこれが知られれば、絶対に嫌われてしまう。 「この秘密だけはなんとしても死守しないと」 そう誓ったあの夜、でもそれが私の思い違いと分かったのはもっと後のことでした。 燐の7 「ティアVSジャンヌ」
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/99.html
人物設定 金矢利道 SOS技術研究所に勤める研究員 二人の神姫をこよなく愛している マッドサイエンティスト気質で、バトルに参加したいとマリンが言ったとたん武装を即座に用意するなど、行動力溢れる人 ただし、基本的に意地のいい人ではない アニタ(ストラーフ型) 明るく活発。マスターにちょっとしたイタズラやわがままを言い、それを許してもらえるのがうれしくて仕方が無い子。 要求のレベルは非常に低く、確実に実現できるものをチョイスしている 自分のわがままや生意気さを自覚していて、それを許してもらうことに愛を感じている 裏闘技場での経験がトラウマになっており、最近夜中うなされている マリン(アーンヴァル型) 生真面目で大人しい。マリンのお姉さん的存在。口数が少なく、何を考えているか分かりづらいが、たいしたことは考えていない 自分の要求を口に出せないが、マスターがアニタにしてあげたことをすぐに自分にもしてくれることに幸福感を持っている その性格が災いして、利道にいじられている 武装設定 標準装備 タクティカル・エッジ 大型ナイフ 知り合いの研ぎ師に無理矢理作らせたもので、このサイズとしては異様な切れ味を持つ 2mm厚の装甲板を貫通可能 ターミネーター・マチェット 大型実体剣 小さいが、日本刀と同じ手法で作られており、すさまじい威力を持つ 直径5mmの鉄棒をたやすく両断する マリン専用バトルコスチューム 人工筋肉製の強化外骨格の上に、防弾防刃耐熱繊維で作られたメイド服を着込んだもの どちらの素材も、SOS技術研究所で開発された最新鋭の技術を持って作られている メイド服のスカートの中に多種多様な武器を隠しており、まさに「メイドさんのスカートのなかは宇宙と繋がってる」といった感じ ポケットと内部がつながっており、そこから武器を出す ちなみに、人工筋肉製外骨格の形状の都合上、通常の神姫より肉感的なスタイルとなっている 更なる秘密機能が隠されているとのうわさも… マリン専用武装(一部) リボルバー(S W M10型)×2 オートでなくリボルバーなのはただの趣味 クイック・ローダーではなく、手で装填する ちなみにこれとナイフだけはエプロンのポケットの中に納められている ショットガン(SPAS-12型)×2 これまた趣味で選んだショットガン メイド服とショットガンほど似合う組み合わせは無いとのことで、主力武器としている サブマシンガン(UZI9mmSMG型)×2 趣味で選んだサブマシンガン ちなみに、神姫用弾薬の規格は(基本的に)統一されているのでリボルバーと同じ弾が使える 無反動砲(パンツァーファウスト型)×4 スカートの中に納めるために、小型化されたパンツァーファウスト SOS技術研究所のオリジナル作品 小型化の影響で威力射程は劣化しているが、その分数を揃えることで対応している スカートの中から出てくる様はある種卑猥である 威力が劣化しているとはいえ、15mmの装甲を貫通する能力がある 射程も、基本的に近接戦闘になりやすい武装神姫の戦闘では問題にならなかった ちなみに、小型化によって軽量化された恩恵か、使い勝手は非常に良好で、後に少数生産であるが一般販売されている 用語 SOS技術研究所 元は人工筋肉関連の技術研究を行っていた研究所 現在は、神姫用人工筋肉のライセンスなどでウハウハ 金があるので、大分趣味に偏った研究に走っている それでも十分な成果を上げている ちなみに、SOSとは研究所を立ち上げたメンバー 所長の相馬、主席研究員の尾田、出資者の柴崎 それぞれの頭文字を取ったものである
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1520.html
白い天使に舞い降りた奇跡 年の瀬も迫るころ・・・街はクリスマスムード一色。 夕暮れ迫る頃にはイルミネーションの灯がともされ、より一層あでやかな表情となる。 そんな本通りの片隅、赤煉瓦作りを模した小洒落た外観を持つロボット専門店のショーケースに・・・凛々しいスタイルで飾られているアーンヴァルがいた。 両の手にサーベルを構え、白く輝く翼を背負い、今にも飛び出そうといわんばかりの格好・・・ではあったが。 どことなく、うつろな表情で。どこかしら、哀しい目つきで。 ショーケースの内側から、街の灯りを・・・行き交う人々を眺め続けていた。 彼女は、この店の武装神姫のディスプレイとして・・・発売されたその日から、いわば仮起動の形で置かれていた。 AIは起動しているものの、自らの意志で動くことは出来ず、焦点もディスプレイを覗いた人と目が合う位置で固定されて。 移りゆく季節をぼやけた視界で眺め続け、時折足を止めて自分を見てくれる人の顔を覚えるだけが楽しみの毎日。 今日も、いつもと同じ曖昧な景色を眺める・・・はずだった。 低い日差しの日が沈もうという頃、アーンヴァルの収まるショーケースを見ていたカップルが声を上げた。 -ホワイトクリスマスだ- 何のことか、わからないアーンヴァル。 だが視界には、ちらちらと白い物が映る。 一体なんなのだろう。確認したい・・・でも・・・。 そんな願いが通じたものか。 突如、センサーが・・・アイセンサーが動き、焦点を動かすことが出来るようになった。 ちらちらと舞うものは、雪。 道行く人が数年ぶりに積もりそうだと言いながら過ぎてゆく。 まだ浅いAIをフル作動させて雪というものを解析しようとしたアーンヴァルだったが。 目の前に広がる、初めて鮮明になった世界に、全てを奪われた。 様々な色と光が舞い踊り、幻想的な世界に・・・空からの小さな天使たちが舞い降りる。 街行く人々は皆幸せそうな笑みを浮かべながら白い便りを受け取っている。 店の前では買ってほしいと駄々をこねて泣く子供もいれば、胸にマオチャオ・ハウリンを収めてショーウインドウを眺めるサラリーマンの姿も。 だが、皆・・・その場を立ち去り、光あふれる世界へと消えていく。 サラリーマンの胸に収まったマオチャオが、手を振りながら遠ざかってゆくのを見たとき。 アーンヴァルの中に、今までには決して湧き上がらなかった感情が芽生えた。 仮起動させられたその時から、アーンヴァルは思っていた。自分には決して「マスター」は現れない。 妹たちの道しるべとなるべく、武装神姫たる姿を示し続けることが私の仕事。 ・・・そう思っていた。 深々と雪が降るにぎやかな世界を、ガラス越しに眺めながら・・・沸々と湧き上がる、もっと世界を知りたいという欲望と、取り残されているのではないかという不安。 そして。本当は自分も、自分にも・・・マスターが現れる事を待っていたのではないかと・・・。 いたたまれなくなり、アイセンサーのフォーカスをずらしてガラスに映る自分の姿に・・・今までと同じ位置に合わせ、見慣れた自分の姿を見つめていると。 じわり。 視界に、今までとは異なるゆがみが生じた。 ・・・涙。 仮起動のはずなのに、涙の機能も作動するなんて。 外を行き交う人の影よりもずっと小さく、いつもよりも自分の姿がもっと小さく見える・・・。 ふと、聴覚センサーに鐘の音が響いた。 時計塔の鐘・・・。 街の灯りがひとつ、またひとつと消え始めた。 人の気配は多いけれど、街はそろそろお休みの時間。 今日は悲しい気持ちのまま、寝ることになるのだろうか・・・。その前に、もう一度だけ、怖いけれども世界を見ておこう・・・フォーカスを再び動かし、ガラスの外にピントを合わせたそのときだった。 目の前に、ポケットにマオチャオとハウリンを入れた、あのサラリーマンが・・・白い息を吐きながら、肩には雪を載せて立っていた。 胸のハウリンがサラリーマンの襟を引っ張りながら、アーンヴァルの方を指して何か言っている。マオチャオはといえば、ニコニコしながら何かを伝えようとしているのか、ぶんぶんと手を振っている。 サラリーマンはすでに一部消灯されたショーウインドウに顔を近づけ、吐息で曇るガラスを時折きゅっきゅと袖で拭きながら、アーンヴァルをやさしげな瞳で見つめて・・・。 小さく頷くと、ショーウインドウの前を立ち去った。 お願い・・・行かないで・・・! 私を・・・私をいっしょに連れて行って! 声にならない、心の叫びを上げるアーンヴァル。 すると。 ショーウインドウの明かりが、再度点された。 何事なのか、驚くアーンヴァルの背後で、今度は扉が開けられる音に続き、視界が、景色がぐるりと廻り、久々に店内へと持ち込まれた。半分灯りの落とされた、薄暗い店内でまだ明るさの残るカウンターに載せられたアーンヴァル。 そうか、またポーズの変更なんだろう・・・と、アーンヴァルの立てた予測は大胆にもはずされた。 電源の通ったクレイドルに、起動前のスタンダードスタイルで載せられ、カタカタと背後でなにやら操作がなされてアイセンサーが、瞳が強制的に閉ざされた。 かちり。 アーンヴァルの脳裏に、いつもと違う感触が走る。 ・・・手足に、力が入る。 動く!! 間違いない、これは・・・。 ・・・高ぶる気持ちを抑えながら、おそるおそる目をあけた。 「やぁ、はじめまして。ウチが、君のマスターになるヒサトオっちゅーもんです。 で、こちらがハウリンのシンメイ、アタマにのっかっているのが見ての通りマオチャオのエル・・・ガーーーー!! こら、髪の毛ひっぱるなーーー!!!」 まるで外の世界の楽しみを丸ごと背負ってきたような雰囲気を漂わせた、あのサラリーマンが・・・自分が一目惚れしたひとが・・・!!! 店長となにやら楽しそうに会話するヒサトオと名乗った男。 話の内容から、アーンヴァルはすぐに理解した。このひとも、今の瞬間を待っていたのだ、と・・・! 「君の名前なんだけど・・・夕方に君を見たときにビビッと思いついたこの名前でもいいかなぁ。シンプルだけれど、奥が深いと思うんだ。 どうだい、『イオ』ちゃん。」 先とは違う涙がわきあがる。 「帰ってから起動させてあげてもよかったんだけれど、この街でホワイトクリスマスなんてそうそうあるもんじゃないからね。無理を言ってお願いして、ここで起動させたんだ。 ・・・じゃ、みんなで一緒に帰ろうか。奇跡の夜を存分に楽しみながらねっ!」 そっと手を差し伸べるマスターとなるひとの顔も、一緒にいる神姫たちの顔も滲んでしまった。 でも、自分の手で拭けばいい。 フォーカスだって、我慢することも無い。 眺めるだけだった世界へ、自らの脚で飛び込んでいける・・・! 差し伸べられた手にゆっくりと乗り、マスターの顔を見上げて。 初めて発する言葉に、今の思いをありったけ詰め込んで-。 「よろしくお願いいたします、マスター!」 白い天使が舞い踊る街で。 地に降りた小さな天使にも、 届けられた大きなプレゼント。 そう。今宵はクリスマス。 皆が、幸せあふれる夜となりますように・・・。 <トップ へ戻る<
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/1207.html
SHINKI/NEAR TO YOU Phase02-2 rondo 「本物のヴァイオリンかぁ……」 校庭を眺めながら、シュンは人知れず呟いた。 日曜の昼から降り出した雨は、結局今日も降り続いたままだ。 「どうしたのよ、シュっちゃん。ため息なんかついて?」 向かい合わせた机ごしに、幼馴染の伊吹舞が覗き込んでくる。 「別に、なんでもねーっすよー」 肩をすくめながら、シュンは机の上に広げた弁当をパクつく。 また誤魔化そうとしてる――その様子を見て伊吹はピンときた。 「それって今日、ぜっちゃんが一緒じゃない事と関係ある?」 「ぶほっ!?」 「シュン、汚いの~」 むせて目を白黒させるシュンを見て、ワカナがサンドイッチを抱えながら伊吹の肩に飛び乗った。 (図星か……ホントにシュっちゃんてば昔から分かりやすいなぁ) ワカナから受け取ったサンドイッチを頬張りながら、伊吹は呆れる。 「それで、一体何があったのよ?」 伊吹がそう尋ねると、シュンがまだ渋っているのを見て関節技で成敗! 「ギ……ギブアップ。分かったよ。話す、話すからっ!」慌てるシュンの姿に満足しながら、伊吹は事情を聞き出した。 「ふ~ん、武装神姫がヴァイオリンをねぇ……」 シュンが日曜の出来事を説明すると、話を聞き終わった伊吹は首を傾げた。 「話は分かったわ。でもそれだけじゃ、ぜっちゃんを学校に連れてこなかった理由にはならないよね?」 「まだつづきがありそうなの~」 シュンはまたため息をつきながら、あの後起こったことを思い出していた。 チカの話を聞き終わった後ちょっと揉め事があった。 発端はゼリスだ。真摯に相談するチカを、ゼリスが頑として突っぱねたのだ。 「相談されたところで私たちにはどうしようもない問題です、そのことはすでにメールでは伝えておいたはずでしょう? それなのに、何故直接会いに来てまでそれにこだわるのか、私には貴女の考えが理解に苦しみますね」 そっけないゼリスにチカは押し黙った。 見かねたシュンはふたりの間に割って入ったのだが――それがいけなかった。今度はシュンとゼリスで口論になるところを、優がストップ。ゼリスは優と一緒にリビングを出て行ってしまった。 しばしの気まずい沈黙の後、シュンは連絡先だけ交換して、その日は耕一とチカに帰ってもらうことにしたのだった。 「彼女が――チカがあんなことを言い出したのは、祖父のことがあるのかも知れません」 帰り際に、耕一がシュンにポツリともらした。今回のチカの行動は耕一の祖父に関係があるのだ、と。 「僕の祖父、和光章典は名の知れた音楽家です。僕も祖父から音楽を学びました。その祖父が先月病で倒れてしまって――ええ。倒れたといってもそう深刻な訳ではないのですが……何分高齢なものですから。チカはそんな祖父にヴァイオリンを聞かせることで、彼女なりに元気付けようと考えたのでしょうね……」 去っていく耕一を見送りながら、シュンにはその後姿が寂しそうに見えた。 「それを聞いたシュっちゃんは、ふたりの願いを叶えようとか思っちゃった訳ね」 悪いかよとムスッとした顔をするシュン。それを見て伊吹は呆れと同時に、何だかおかしくなった。 (全くぅ。それで自分たちがケンカしてちゃ意味ないでしょうに。でもそんなところが、シュッちゃんらしいのかしら……) 伊吹がそんなことを考えているとはいざ知らず。シュンは隙をみてトマトサンドを盗み盗ろうと企み、伸ばした手をワカナがブロック。そのままパスされたサンドイッチをぱくりと齧りながら、伊吹はシュンに告げた。 「それで? 私にできることなら手伝ってあげるわよ」 ♪♪♪ 「すまん。いろいろ考えたんだけど、他に思いつかなかったんだ。神楽さんと連絡を取りたい」 考え抜いた末の方法がそれだった。 あれこれ頭を捻って、幼馴染に手を合わせてまでした結果が人を頼ることというのは、正直シュン自身少々……いや、かなり情けないとは思うのだが。背に腹は変えられない。 つまるところ、自分は結局ただの中学生な訳だし。 その点、神楽さんならいろいろとこの手の情報にも詳しいだろうし、頼るには打ってつけだ。シュンの知る人の中では、こんなときに最も頼りになる人のはずだった。 ただ以外だったのは、シュンがこのことを話すとき伊吹がどこか複雑な表情をしていたということだ。 「いい? コンタクトが取れたからって、あの人が必ずしもシュっちゃんに協力してくれるとは限らないんだからね? それと私がやるのはあくまでも最初の仲介だけよ。その後の交渉は直接シュッちゃんがすること」 それと、後で〝仲介料〟として駅前のカフェで特大のパフェを奢ること――それがこの件に関して伊吹が出した条件だった。 ちなみに、駅前のカフェの人気メニュー「スペシャル・デラックス・パフェ」の価格は1190円だ。 背に腹は変えられない……。 そして、それに見合うだけの価値は、あった。 「やあ、久しぶりだね。本当はもう少し早く連絡を……と思っていたのだが、何分うちの教授がこのところうるさいのでね。ところで、ルイス・スティーブンソンはコカインの力を借りて三日三晩でかの『ジキル博士とハイド氏』を書き上げたそうだよ。これを例に、あのボンクラが惰眠にふけっている間を見計らってその方法を実践してやれば、少しはあの愚昧な頭脳からも先鋭的なアイデアを引き出すことが可能ではないかと僕は考えるのだが、君はどう思うかな? …………ああ、すまない。そうそう、先日の依頼の話をしていたのだったね。しかし、身近に舞という対象がいながら、君もどうしてなかなか、隅に置けないな」 PDA(ケータイ)に出るなりの、機関銃のごとき喋り。 「いや、分かっているよ。聞くところによると、君の神姫はなかなかに可憐だという話じゃないか。若き衝動を受け入れ、ただ突っ走ることも君くらいの年代には時には必要なのさ。このような形で愛を確かめ合うこともひとつの在り方だよ。 …………何? 話が見えてこないが、依頼内容は君の神姫が人の営みをこなすにはどのような方法があるか、でははなかったのか? …………ふむ。なるほど。くっくっく……はは、すまない。どうやらこちらの早とちりだったようだね。いや、神姫を人間にする方法はないかときたのもだから、僕はてっきりそっちの意味だと…………え、何を言っているのか分からないって? ああ、聞き流してくれて構わないよ。 閑話休題、話を戻そう。――ふむ、武装神姫にヴァイオリンを……か。君はやはりなかなかおもしろいことを考えるね。 …………大丈夫、それならば心配はいらないよ。その要望なら僕が調達したもので十分に間に合うはずだ。その点については安心してくれ給え。さて、さしあたっての詳しい段取りだが、まずは今度の日曜日に…………」 電話を終えたシュンは大きく伸びをした後、PDAをベットに放りそれから自分もバタッと倒れこんだ。 相変わらず神楽さんは変わった人だが、やはり頼りになる。 一時はどうなることかと思ったが、これでチカと耕一の願いを叶えることができるはずだ。そうとなれば―― よっとシュンは立ち上がる。 (まずは教えて貰った連絡先に電話して、耕一とチカに教えてやらなくちゃな。それに、伊吹にも教えとくか。あいつのお陰でうまく方法が見つかった訳だし、奢りの件とは別にお礼でも言っておかないとな) 考えをまとめながらシュンが部屋を出ようとすると、廊下にゼリスが立っていた。 方法を探してる間、ゼリスはそんなシュンを見て一切の口出しもしてこなかった。面倒がなかったといえばそうだが、なんとなく気まずい。 あの日曜日の口論以来、シュンはゼリスとあまり話していない。それどころか、ゼリスの方がシュンを避けているらしいことを薄々感じていた。 今もゼリスが優の部屋から出てきたところに、偶然出会わせてしまったらしい。 いつもツンとしたポーカーフェイスだから分かりづらいが、ゼリスの方もどことなくバツが悪そうに見える――のは、シュンの思い込みじゃないはずだ。 「シュンのその顔を見ると、何か進展があったようですね」 「ああ、そうだ。神姫にヴァイオリンを弾かせる方法が見つかったよ」 シュンがそう返してもと、ゼリスはそのことにまるで関心がないかのように「そうですか、よかったですね」とそっけなく言うだけだった。 チカの話を聞いたときは、あれだけ柄にもなく大反対してたクセに――。 別にいいさ。 シュンはゼリスの希薄な反応を気にせずに、階段へと向う。 あいつもあの時はあれだけ無理だと言っていた手前、やっぱり相当バツが悪いんだろう。チカの夢が叶うのをみんなで一緒に喜べば、そんなのも気にする必要ことないって分かって、ゼリスの機嫌もきっと良くなるさ。 シュンはそう結論付けると、彼の部屋をジッと覗き込むゼリスを残し、リビングへと降りていった。 忘れていたように家の外から聞こえる雨音に、なんとなくこの雨は当分降り続きそうだなと思いながら、シュンは受話器を手に取った。 そして、日曜日―― ♪♪♪ 空をどんよりとした雨雲が覆う中、シュンは摩耶野市駅に降り立った。 結局連日降り続いた雨は、今は辛うじて降っていない。ただ空の様子を見る限りでは、また一雨ありそうな気配だ。 そんな上空の様子を気にしつつ、待ち合わせ場所の駅南側にある高架広場に向かう。 南口からぺデストリアンデッキを抜けシュンたちが広場に出ると、すでに噴水脇に立っていた耕一が歩み寄ってきた。 「お久しぶりです、有馬さん。本日は本当にありがとうございます」 丁寧にお辞儀をされ、シュンは慌てた。解法を導いてくれたのは神楽さんなのだ。今回シュンはあくまでも間を取り持っただけで、そんなかしこまられることは……。 「いえ、有馬さんが私たちのためにいろいろと方々を駆け回って下さったことは伺っています。こうしてチカの夢が叶う方法が見つかったのも、有馬さんがいたからこそです」 「有馬さん、ありがとございます」 そういって耕一とチカに交互にお礼を言われると、シュンはなんともむずがゆい気分になってくるのだった。それに面と向かって頭を下げられると、照れくさいし。 頬をかきつつ、そこではたと気づきバックを持ち上げた。 「ほら。お前も挨拶くらいしろよ、ゼリス」 シュンは肩から提げたスリーウェイバックに声を掛ける。 「……私はただいまお昼寝中です。人間のみならず神姫にとって睡眠とは日々の活動を支える必要不可欠かつ、重要な要素。なので阻害しないでください……」 バックの中から聞こえるくぐもった声は、普段に比べ少し力が無いように感じる。 「あの……ゼリスさん、こんにちは」 耕一の手に乗ったチカが身を乗り出して、そんなゼリスに声を掛ける。それに対しゼリスはバックに篭ったまま「……ご無沙汰しています」とぼそぼそ返す。 どうにもこうにも。ふたりともこの間のことをまだ気にしているようだ。 ――気まずい。 「ええ~っと、それにしても遅いわね~」 重くなりそうな空気をいち早く察してか、伊吹がすかさず話題をそらす。ナイスだ、付き添いと称して勝手についてきたことだけはある。 「シュっちゃん、待ち合わせはここで合ってるよね?」 「神楽さんとの打ち合わせでは、駅前の噴水のところで落ち合うことになってるけど……」 と、そこで周りを見渡したシュンの目に、黒い影が写りこんだ。 黒い髪、黒い切れ長な目、黒一色のスーツに身を包んだ、影法師をそのまま繰り抜いたかのような特徴的な雰囲気の立ち姿。 神楽さんだ。 「さあ、着いてきてくれたまえ」 挨拶もそこそこに先頭に立って歩き出した神楽さんに連れられ、一行が向かった先はシュンのよく知っている場所だった。 「ここって、神姫センターじゃないですか?」 たどり着いたその場所は、摩耶野市駅から徒歩10分あまり。 弧を描いた近代的なガラス張りメインゲートが特徴的な、お馴染みの場所。神姫センター摩耶野市店だった。 「ちょっとシュっちゃん、神姫のヴァイオリンと神姫センターにどんな関係があるのよ?」 僕に聞くなよとシュンが思うそばから、神楽さんはエスカレータをすいすい昇っていく。 1階から吹き抜けを昇り、上のフロアを目指す。 7人(4人と3体の神姫)連れ立ってフロア内を移動する。ショッピングスペースの間を抜け、エスカレータでさらに上階に昇るなか、耕一とチカのふたりは珍しそうに階下の様子を眺めている。 伊吹とワカナは常連だし、シュンとゼリスにとってもこの神姫センターは馴染みの場所になりつつあるけど、耕一とチカはそもそもこういう所に来ることがないのかもしれない。 シュンがそんなことをチラッと考える間、エスカレータは神姫センターの中をどんどん昇っていく。 出し抜けに視界を、色取り取りの光が出迎えた。 立体モニターの映し出す派手な映像、刺激的なBGM、熱気溢れる群集。それらが取り巻くマシンに刻まれた大きなロゴ――BMA(神姫バトル・マスター・アソシエイション)。 一行が辿り着いたのは、最上階の神姫バトルホールだった。 「〝どうすれば武装神姫が本物のヴァイオリンを弾くことができるか〟。与えられた命題はそれだったね?」 出し抜けに神楽さんが本題を切り出す。 「はい。でも神姫が弾けるような本物のヴァイオリンなんてあるんですか?」 シュンの疑問に「そう、そこだよ」と神楽さんは頷き返す。 「音響学的制約から、神姫が扱えるように本物のヴァイオリンを神姫サイズまでスケールダウンする方法は、返って遠回りだ。神姫サイズの大きさでは、ヴァイオリンそのままの音色を再現できないからね」 確認するように一堂を見渡す神楽さんに、シュンは頷く。 そう。それで困ったからこそ神楽さんを頼った訳なんだけど――じゃあ、他にどんな方法があるんだ? 「簡単なことさ。ヴァイオリンを神姫に合わせようとするから、大変なのだよ。ならば、逆をすればいいのさ」 「……逆?」 思わずオウム返しに呟いたシュンは、耕一と目を合わせ首を傾げる。伊吹を見ても、彼女も肩をすくめるだけだ。 再び神楽さんを見ると、そこには愉快そうに微笑む顔があった。……そうだった、この人は昔からこんな風に相手を焦らしては、反応を楽しむような人だったっけ。 頭にクエスチョンマークを浮かべるシュンたちの反応に満足したのか、神楽さんは得意げに胸を反らす。 「ヴァイオリンを神姫に合わせられないのならば、神姫をヴァイオリンに合わせればいいのさ」 「そんな方法があるんですか?」 自信満々に言うなぁ。確かに理屈としてはそうだけど、そんな都合のいいことが本当に可能なのだろうか。 そんな疑念を抱くシュンらに対し、事も無げに神楽さんは答えた。 「可能だとも」 それを聞いてチカがパッ表情を輝かせ、続く神楽さんの「――ただし、条件がある」の言葉に顔を強張らせる。 「条件――ですか?」 耕一が問い返す。端整な顔に浮かぶのは困惑の色だ。他のみんなも思いがけない展開に意表をつかれ、神楽さんに疑いの目を向ける。 「ちょっとぉ! それじゃ話が違うわよ。ここまで来て急にそんなの、ずるいわっ」 伊吹が神楽さんに噛み付く。無理もない。当事者の耕一とチカはもちろん、シュンもこんな話は聞いていなかった。この場で何の反応もないのは、バックに篭ったままのゼリスくらいだろう。……呑気な奴。 しかし、神楽さんはそんなみんなの反応にも余裕の態度で、手をひらひら振ってみせる。 「ちっちっち、そう慌てるな。何もとって食おうという訳じゃない」 「どういうことですか?」問いかけるシュンに、神楽さんは意気揚々と喋りだす。 「何、簡単なことさ。この世の中は往々にして対価交換によって成り立っていると、僕は考えるのだ。例えば人の歴史で言えば、狩をすればそれに見合うリスクを背負う、水を引かねば稲穂は育たない。貝や賃金を払わねば物を得ることは出来ず、領地を得る代わりに俵を納めなければならない。 君たちにも身近な事例を挙げれば、電車に乗車するには切符を購入せねばならず、テストでいい点が取りたければ勉強しなくてはならない。 分かるかい? 量子力学レベルでは対消滅によって純粋エネルギーが作られる際に、それに値するだけの電子と陽電子が必要とされる。僕たちの生きるこの世界では、何かを得るためには、必ずそれに見合うだけのものを払わなければならないのさ」 「ようするに、耕一とチカも何か対価を払うべきってことですか?」 いきなりのマシンガントークに面食らう耕一に代わってシュンが確認する。つまりは神楽さんはその何かをしないうちは、方法を教えないつもりなんだ。 「対価といっても、何も代金を請求したりはしないよ。……おいおい、何だいその顔は。見くびってくれるなよ、確かに僕は一介の学生の身だが、君たちから金を頂戴するほど困窮にあえいではいないのさ。 それに、この件に関してはちょっとしたコネを使ってね。特に金は関わっていない。……まあ、その辺りは大人の話さ。くっくっく、あの愚昧な狸教授もこうした点では利用し甲斐があるというものだよ」 いや、その話はいいですから。そろそろ何をさせられるのか教えてください。耕一やチカが困っているんで。 「……そう急くなよ、先人の言葉には急がば回れ――などというものもあるだろう。ようは君たちの決意――意志の強さを見せてもらいたいのさ。だってそうだろう? こちらは然るべき手順を踏んで方法を模索したのに、半端な気持ちで応えられたのでは割に合わないと考えるのは、人としてリアルな感情というものだよ。 では、以下にしてそれを量るべきか――。答えは君たちという存在を考慮すれば、自ずと導き出される――」 くいっと親指で指し標す先にあるのは……武装神姫バトルの筐体? 「今から神姫バトルをしてもらう。ここから先の話はその後にしようじゃないか」 なるほど、ようやく話が読めた。ようするにこれからチカと耕一が試合をして、勝ったら方法を教えるって言いたい訳か。 「試合……ですか?」 「そうさ。私が用意した相手とこれから戦ってもらう」 耕一とチカを見下ろすように、神楽さんは不敵に笑う。 「もっとも辞退するなら止めないけどね。しかしその場合、この話はなかったことにさせてもらうがね」 今後同じように神楽さんを頼っても、次は協力してくれないって意味だろう。チカの夢を叶えるには、チャンスはこれっきり。ここで頑張るしかないってことになる。 「分かりました。……やらせてください」 緊張に固まる場に、小さいが強い意志を持った声が響く。耕一の手に乗ったチカが、決意を込めた眼差しでみんなを見渡す。その目が耕一と真っ直ぐに向き合う。 「チカ……」 「やらせてください、ご主人様。私、頑張りますから」 耕一とチカが見詰め合う。しばらくして「分かりました」と耕一は顔を上げる。 パンッと手を叩き、神楽さんが声を張り上げる。 「オーケイ、対戦カード成立だ。君たちの意志の強さ、見せてもらうよ」 筐体に歩み寄り、シートに片手をついてこちらを向く。神楽さんは人を食ったような笑顔。まるでチャシャ猫だ。 優雅な仕草で指を「パチン」とひとつ、鳴らす。その仕草に合わせて、バトルスポットに一体の神姫がスッと舞い降りた。 「では紹介しよう。彼女が君たちを試す調停者、今回の対戦相手だ」 神楽さんの宣言と共に、蒼い髪をかき上げるその小柄な姿に、シュンはあっと声を上げそうになった。 「――ゼリス?」 慌ててバックを除いてみると、そこはもぬけの殻だった。 「いいい……いつの間に? いや、それよりなんでお前がっ?」 「……ゼリスちゃんは神出鬼没なのです」 「いやいやいや、それ全っ然意味わかんないしっ!?」 口をパクパクさせるシュンを無視して、ゼリスはチカをビッと指差した。 「ということでチカさん。ここから先に進む道を得たいのならば、私を倒してからにしていただきましょう」 「さあ、そういうことだよ諸君。せいぜい頑張ってくれたまえ、ははははははは」 神楽さんとゼリスは声を合わせて笑う。心底楽しそうに笑う神楽さんに、明らかに棒読みの作り笑いなゼリス。……はっきり言って全然息があっていない。それが逆に怖い。 「どういうことなのよ、シュッちゃん」 そんなのはこっちが教えて欲しい。しかもふたりとも目がマジだ。 「……ゼリスさん」 意外なゼリスの登場に動揺していたチカも、状況を飲み込みキッとゼリスを正面から見つめ返す。 もう認めるしかない。ゼリスとチカ、ふたりは互いに友だち同士で武装神姫バトル対決を行うのだ。 ふと気がつけば、センター屋上のガラス窓から見える景色は雨に包まれていた。 ――ゼリスの奴、チカに反対していたけど、まさかこうも明らさまに邪魔をしてくるなんて……。くそっ、もう勝手にしろっ。 ▲BACK///NEXT▼ 戻る
https://w.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2378.html
7匹目 『猫の野望』 ある日、マスターがこんなことを言っていた。 「僕達はさ、世界の歯車みたいなものなんだよ。 たぶん」 マスターが夕飯を食べている時に、随分と唐突に、しかもそれほど改まって聞かされることでもないように思ったので、私は 「はあ」 と気のない返事をした。 そんな考えを私の表情から見て取ったのか、マスターは 「ああ、違う違う、そういう意味じゃなくて」 と話を続けた。 「社会で働いている人を歯車に例えるとかそういうことじゃなくて、なんて言えばいいのかなあ――世の中のすべてのものが脳の神経のような機能を持っていて、僕達の何気ない行動が何かの情報を産み出しているようなイメージなんだけど、どうかなあ」 「えっと、それは一昨日マスターがえっちぃ動画をこっそり見ていて、その行動を見た私に 【憤怒】 という情報を発生させたとか、そういったことですか?」 「だ、だからごめんってば、アマティは意外と根に持つなあ。 そういうことじゃなくて、もっと宇宙規模の大きな話だよ」 私にとってはマスターこそ世界のすべてであって、そのマスターが私という魅惑の塊を差し置いて 『必要以上に大きなセーラー服3』 を鑑賞していたことはわりと死活問題なんだけど、ここで蒸し返しても不毛な争いにしかならない気がしたので、とりあえず先を促した。 「ファンタジーものの小説や漫画に 【世界の意思】 とか、そういったものがよく出てくるよね。 それに影響されたってわけじゃないけど、じゃあその 【世界の意思】 は具体的にどうやって情報を扱っているのかなって考えたんだ」 「それは、神様がいるんじゃないですか? 神様に何か考えがあって、世界を作ったとかなんとか」 「まあ、そんな存在がいるなら神様って呼んでもいいんだろうけどね。 でも僕が言いたいのは、その神様の 【脳】 は世界そのものなんじゃないかってこと」 食事中の会話に 【世界の意思】 っていう単語が出てくるあたり、マスターもつくづく変わった人だ。 変わった人でも女子高生に萌えたりするんだなあ、とも思ったり。 かぼちゃの煮物を箸で行儀悪く突付きながらマスターは考え考え言った。 「大きく言うなら地球だとか、太陽だとか、もっと言えば銀河系だとか、止まっているものはないよね。 その動きの一つ一つが、実は脳の電気信号みたいな意味を持ってるんだと思うんだよ。 そうだなあ、例えば、惑星ベジータとウルトラの星がコンマ5光年くらい平行移動する時があれば、それは宇宙全体が 『おなかすいたー』 って考えているかもしれないってこと」 マスターが言いたいことはなんとなく分かったけれど、宇宙の意思がそこまで単純だとすれば、ロマンを追い求める天文学者は答えに辿り着いた瞬間、拍子抜けを通り越して魂が抜けてしまうかもしれない。 そもそも惑星ベジータはとっくに滅ぼされている。 M78星雲に至っては星ですらない (光の国はきっと、私達の心の中にある)。 そういった空想物はともかく、宇宙のあらゆるモノの動きと干渉が何かしらの意味を持って、それらが複雑な記号としてまとまって一つの意思になる、ってことでいいのだろうか。 「でもそれだと、私達なんてちっぽけすぎて、宇宙さんの考えにまったく関われないですね」 「いやいや、案外僕達がピンポイントで重要なのかもしれないよ。 それに 【世界の意思】 が一つとは限らない」 そこでマスターがビシッ! と人差し指を立てた。 この時のマスターはやけに饒舌だったけど、会社でいいことでもあったのだろうか。 「僕は宇宙規模どころか、地球、国、もっと絞って町レベルにも意思があると思うんだ」 「町、ですか。 まさかマスター、その意思こそが町内会規則だ、っていうオチじゃないですよね」 「……そんなことを言うつもりはないけど、アマティ、ボケ殺しはよくないよ」 そういうつもりで言ったわけじゃないけど、素直に頷いておいた。 マスターはコホン、と一度咳をして、話を続けた。 「先週の水曜日と木曜日に出張に行った時なんだけどさ、帰りの飛行機でいろんな町の上を通ったんだよ。 夜だったから道路の明かりが葉脈みたいに並んでいて、これがすごく綺麗でね」 「私も見たかったです。 今度から出張には私も連れて行ってください」 「連れて行くのはいいけど、アマティはガッツリ電子機器だから飛行機に乗れないんじゃないかなあ」 「(ガーン!)」 「まあ、今度からは極力新幹線を使うよ。 飛行機とはまた違った楽しみがあるよ。 それで、そう、夜景を見下ろした時なんだけど、町の明かりの中に規則正しく動く明かりがあってね。 あまり細かく見えたわけじゃないけど、車が高速道路を走ったり、信号で止まったり、曲がったりしててね、それが僕には生き物の血管に流れる血みたいに見えたんだ。 一人で呟いたよ、『町が生きてる』 って」 「町が、生きて――」 この時のその言葉が、私の閉ざされた目を覚ました。 唐突に視界が広がって、いや、視界のみならず私の全感覚が、広く、遠く、より繊細で強いものになったようだった。 部屋にあるものを、部屋の形を、自分の手で一つ一つ触れているようにはっきりと認識できた。 部屋だけではない。 その気になれば、部屋の外にまで手が届きそうな気がした。 町が生きている。 この町を好きになれなかった私の心に、知らず凝り固まっていた私の心に、マスターの言葉が波紋のように響き渡った。 命を持った、命の集まり。 もし本当にそうなのなら。 町が本当に生き物と呼べるものなのなら。 そこには何かしらの、意思がある。 その意思は―― 「――その意思こそ、僕達のことだと思うんだ」 「マスターって、案外ロマンティストなんですね」 「わりと本気で話したんだけどなぁ……」 「でも」 「うん?」 「そういうお話は――私は好きです」 マスターからしてみると、私達は 【町】 という生き物の一部として動いているということになるけれど、私はちょこっと違うと思う。 やっと目覚めることができたからこそ言えることだけど、私達が、町という生き物を動かしているんだ。 結果は同じことかもしれないけど、この町も、日本も、世界も、宇宙も、私達が造っている。 これくらい図々しく言っても、唯一私達を咎められる神様は私達が形作っているんだから、大目に見てくれることだろう。 それに、私の名前は日本の神様から貰っているのだし。 「でも神姫も混ざっていいんでしょうか。 心はあってもロボットなわけですし」 「それは大丈夫だと思うよ。 むしろ、これからもし武装神姫が一大ブームを巻き起こしたら、町の意思は少し神姫寄りになっていくと思うよ」 「あはは、神姫の神姫による神姫のための町ですね。 神姫センターがいっぱいできて、毎日が感謝セールになりそうです。 じゃあ、そうですね、もし猫が支配する町になったらどうなっちゃうんでしょう」 「町中の言葉の 『な行』 が 『にゃ行』 になるだろうね。 アマティはネコミミが生えてるからいいけど、僕なんかがにゃあにゃあ言ってたら絶対に不気味だよ」 「そんなことはないです、きっとカワイイと思いますよ」 「そんなフォローをされても……もしアマティが猫語を話すようになったら、一度言ってもらいたい文章があるよ」 「そんな状況が来るとは思いませんが……どんな文章ですか?」 「それはね――」 その時に聞いた文章は、確かこんな感じだった。 「おい、そこのロリ巨乳。 これを読み上げるにゃ」 「はあ、これっスか。 えー、『斜め77度の並びで泣く泣く嘶くナナハン7台難なく並べて長眺め』」 「マドモアゼル、復唱してみるにゃ」 「にゃにゃめにゃにゃじゅうにゃにゃどのにゃらびでにゃくにゃくいにゃにゃくにゃにゃはんにゃにゃだいにゃんにゃくにゃらべてにゃがにゃがめ」 「かぁーわぁーいーいーにゃー!」 体内に充満した 【呆れ】 を溜め息に変えたかったけれど、まだ固い床に押さえつけられたまま頭だけ持ち上げられているせいで、口から出たのはカエルの鳴き声のような音だった。 ゲロゲロ、じゃなくて、もっとリアルな汚い感じ。 「聞いたにゃネコミミギュウドン、これだから猫はやめられません。 おっと、思わず自画自賛してしまったにゃ。 まーでも仕方にゃいにゃ、にゃにせこれから、猫が世界を救うのにゃからにゃ!」 両手を大きく広げ、馬鹿みたいに高笑いする馬鹿。 その馬鹿に続いて、他のマオチャオ達も皆大笑いした。 私と、うっかり疫病猫につられたことで渋い顔をしたカシヨだけが黙っている。 笑い声に囲まれるのがこれほど気持ち悪いことだとは思ってもみなくて、頭の片隅で、ああそういえば 【猫の集会】 なんて言葉があったっけ、そんなどうでもいいことを考えていた。 「なんにゃ、オマエタチ2人ともノリが悪いにゃあ。 んー、そろそろ解放してやるかにゃ、どうせこのメニーマオチャオズの前にはどんにゃ抵抗も無駄にゃことは分かっただろうからにゃ」 パチン、と疫病猫が指を鳴らすと、私を押さえつけていたマオチャオ達が、私が暴れださないか警戒してか、ノロノロと退いていった。 私のヘルメットを掴んでいたマオチャオだけはバッと手を離して、私は危うく床で顔をうちそうになった。 たぶん、分かっているのだろう。 私が疫病猫に飛びかかりたくても、未だ無理な着地による全身の痺れが取れておらず、指すらまともに動かせないことを。 そのことを、せいぜい他のマオチャオ達に悟られないよう、ふらつかないようにゆっくりと、できるだけ自然さを取り繕って立ち上がった。 膝に手をつこうとして、膝の突起が両足とも折れていることに気づいた。 さっき着地した時の不吉な音はこれか。 帰ったらマスターに怒られる。 それとも、悲しませるだろうか。 どっちにせよ……もう勘弁してほしい。 「私だけじゃなくて、そこのカシヨも解放したらどうですか」 「却下にゃ。 マドモアゼルにはまだやってもらわにゃきゃにゃらんことがあるのにゃ」 「まだにゃにかするつもりに……! ……っ……にゃ、に、にゃー!」 どうしても言葉が猫語になってしまうカシヨは抗おうとすればするほど自爆してしまい、屈辱と羞恥で凛々しい顔を赤く染めた。 しかしそれでも疫病猫を睨みつけるだけの気力を保っていられるのは、私程度の神姫が偉そうなことを言うけれど、賞賛に値すると思う。 「もうお分かりにゃと思うが、今このマドモアゼルにインストールしたのは 【ネコ化パッチ ベータ版】 にゃ。 開発は苦労したんにゃよ? 幾度となく立ちふさがる障害、ライバルとの衝突と離別、データを奪おうとする黒幕との死闘――すべてが終わった暁には、ワガハイの開発手記を出版するつもりにゃ。 犯罪者の独白本が売れる世の中にゃら、ワガハイの手記は世界中の人間が手に取るんじゃにゃいか? 印税のことを想像するだけでヨダレが出てくるにゃ」 「で、開発には実際のところ、どれくらい時間がかかったんですか」 「一時間にゃ」 よくもまあ、ここまで悪びれることなく嘘を吐けるものだ。 「神姫のAIをいじるくらい、ワガハイにとって朝飯前にゃ」 事もなげに言うけれど、私にはそれがどれほど高度な技術なのかすら想像がつかない。 マスターがいつか言っていたように単純に 『な行』 を 『にゃ行』 に変えればいい、というものでもないのだろうし、被害者であるカシヨも猫語以外の影響を受けているようには見えず、重大なバグも起こっていないようだ。 プログラムそのものがバグのようなものだけれど。 「まだベータ版にゃから、対応する神姫は少にゃいんだけどにゃ。 これからさらに実験を重ねて、全神姫に対応させていくのにゃ。 残念にゃがら、まだアルトレーネは未対応にゃが、完成の暁にはオマエをいの一番に猫にしてやるにゃ。 嬉しいにゃろ?」 「…………」 「やれやれ、無反応とはつれにゃいにゃ。 そんにゃ立派なネコミミを持っておきながら――まあいいにゃ、どーせオマエはすぐに、自分の仲間を増やしてくれたワガハイに感謝の祈りを捧げることににゃるのにゃからにゃ」 仲間を増やす。 想像はしていたけれど、やはり疫病猫は 【ネコ化パッチ】 なるものを世にばら蒔くつもりらしい。 カシヨのように一体一体捕まえてインストールするのではなく、インターネットに下水の如く垂れ流すのだろう。 出回っている神姫すべてがにゃあと鳴く、猫の猫による猫のための世界。 コンピュータウイルスのように (いやもうウイルスそのものだ) 神姫のCSCを狂わせ、神姫が口を開けば、聞こえてくるのはにゃあにゃあにゃあ。 多くの神姫が集まる神姫センターなんてきっと、右を向いてもにゃあ、左を向いてもにゃあ、前を向いても後ろを振り返っても、耳を塞いでも眼を閉じてもにゃあ、そんなある種の拷問のような場所と化すことだろう。 そんなことできっこない……と言おうとして、疫病猫の技術力の高さを見せつけられたばかりだったことに気付く。 やってることが馬鹿っぽくて気が抜けてしまうけれど、私は今、割と責任重大な場面に立ち会っているのではなかろうか。 さっきはカシヨだけがターゲットだった。 今度はそれが、世界中の神姫になった。 全身が痺れて立っているのもつらい、だなんて泣き言を言っている場合じゃない? 「くっふっふ、ようやく事の壮大さに気づいたようにゃね。 でも安心するにゃ、さっきも言ったように、まだこのパッチはベータ版にゃから、夢の猫世界への御招待はもうちょっと先になるにゃ。 全神姫に対応させるだけじゃにゃく、一番重要な部分が未完成にゃのよこれが。 こればっかりはさすがのワガハイでもどうにもできにゃかったのにゃ」 そう言って疫病猫は、私を――正確に言うなら、ヘルメットの上からちょこんと覗いているものを、真犯人の正体を暴く探偵のように指差した。 私の意思とは関係無く、それはピクンと動いた。 「そのネコミミ、どうやって生やしたのにゃ」 これまでとは打って変わって声の調子は低く、その言葉には、私を責めるような響きが混じっていた。 気圧され、無意識のうちに一歩後ろに下がろうとして、脚に力が入らずふらついてしまった。 私を睨みつける疫病神の釣り上がった目は、元が目の大きいマオチャオのものであるだけ歪で、威圧感があった。 「ずるいにゃ! マオチャオを差し置いてデフォでネコミミ装備なんてずるいにゃ! ワガハイも天然もののネコミミが欲しいのにゃ!」 気圧された私が馬鹿だった。 「どうやって生えたかだなんて知りませんよ、私がマスターに開封してもらった時にはもう生えていたらしいですし。 ディオーネにでも問い合わせてみたらどうですか?」 「とっくに電話したにゃ。 でも 『ネコミミ、ですか? 申し訳ありません、ちょっとどういう状況なのか…………確かに生えて? そうですねぇ……そのような事例はちょっと…………そう仰られましても、現物を確認しないことには…………あ、その声はもしや…………ですよね、ちょっとあなたのオーナーに代わってもらえますか』 てな感じで、神姫だからって相手にされないのにゃ。 まったく、ディオーネの電話番は電話の向こうにいる相手への気遣いがなってないのにゃ。 ここはワガハイがクレームと称した自爆テロでモンスターカスタマーの恐ろしさを知らしめてやる――わけあるかにゃー!」 「そのネタはもういいです」 アーンヴァルやヴァッフェドルフィンみたいに真面目な神姫ならともかく、マオチャオからかかってきた電話なんて、ましてや内容が内容なだけに、イタズラ電話としか思えないだろう。 念のため言っておきますが―― 「画面の前の紳士さん。 そう、『武装神姫ssまとめ@wiki』 を開いているあなたです。 ディオーネの電話のお姉さんは、相手がマオチャオだったからちょっと戸惑ってしまっただけで、普段は親切丁寧に出来る限りの対応をさせて頂きます。 他に類を見ない親切さと安心感が、ディオーネにはあります。 精密機器ゆえに何かと困り事の多い武装神姫ですから、今後新たに神姫をお迎えする予定がありましたら、完璧なサポート体勢でお楽しみいただけるディオーネ製の戦乙女をご検討下さいますよう、宜しくお願い申し上げます」 お粗末さまでした。 「いきなりなんの話にゃ」 「気にしないで下さい。 時空を超えた宣伝です」 「メタは作者寿命を著しく縮めるのをご存知にゃ?」 「二次創作物内でのメタほど寒いものはないと重重承知の上ですから、きっと大丈夫です」 私の知る限り武装神姫ss関連でメタなネタを見たことがないので、誰かに宛てたネガティブキャンペーンにはならないはず……ですよね? 置いといて。 「私のネコミミがどうやって生えたかだなんて、誰にも分からないと思いますけどね。 もちろん、私も含めて。 開発段階ではネコミミがあった、なんて話も聞きませんし」 「そんにゃことは分かってるにゃ。 そこまで立派にゃネコミミはもう、生産時のバリとか不良品ってレベルじゃにゃくて、もうオカルトの領域にゃ。 そう簡単に他の神姫で再現できるにゃんて思ってにゃいにゃ」 「そうですか。 それなら、どうしますか」 さっきのメタに付きあわせたお詫び、というわけではないけれど、ここは敢えて疫病猫の話に乗ってみた。 そうでもしないと――何かしゃべらないと、頭の中でガンガンと鳴り続ける警鐘でコアがどうにかなりそうだった。 アームには力が入るようになった。 脚はまだガタつくけど、なんとか動きそうだ。 視界の右隅に放り出した大剣ジークリンデが、左隅に片手剣ブラオシュテルンが見える。 一飛びで両方を回収するのは無理そうだ。 それなら―― 「決まってるにゃ。 分からにゃいものは調べるまで――目の前にサンプルがあるにゃら、バラして中のCSCまで調べ尽くすだけにゃ!」 ドリルを高速で回しながら疫病猫が飛びかかってくるのと同時に、私はジークリンデがある右側へ、身を投げ出すように跳んだ。 8匹目 『G.P.M.』 15cm程度の死闘トップへ